2010.10.10
中村正明
masaaki.nakamura.01@gmail.com

 はじめに

 当美術館「屋根裏部屋の美術館」が所蔵する作品「草花」(仮題、鉛筆素描)および作品「樹木の図」(仮題、鉛筆素描)を紹介する。

 古物美術商物故堂がインターネットオークションに出品する絵画に注目していたところ、「丸の中に石」の印章がある靉光の作品「山」(靉光の会鑑定証付き)を観た。これは、日本の山々を描いたものではなく、中国大陸にある山々を描いたものと考えた。
 その後、「丸の中に石」の印章がある作品「草花」を入手した。これは、愚庵「葡萄図」を捩ったものである。
 また、次に同じ印章がある作品「樹木の図」を入手した。この作品には、ヒエロニムス・ボッシュ (ルネサンス期のネーデルラントの画家)の作品一部が描かれていた。
 このような経過をたどった後、作品「山」を観ると、人物が隠されながら描かれていると分かった。

 そして、靉光の油彩画を観ると、そこにはボッシュの作品と同様に奇妙な生き物が描かれているものがあり、また、作品「山」と同じようにいろいろな生き物が隠されたように描かれているものがある。
 そして、靉光作品を調べると、その多くには人が描かれていることが分かった。


 作品「山」(制作年不詳、靉光の会鑑定証書付き、古物美術商物故堂取扱、所有者不詳、中央部にデジカメによるスポット光照射写りあり、所有者不詳)





 ***出品者(古物美術商物故堂)による作品紹介***

 本作品は夭折の画家・靉光の木炭による風景画です。旧家の秘贓品で決して大切にされていた作品ではなく、丸めて押入れに埃をかぶった状態で見つかった作品の一つです。専門家の手により裏打ちを施しまして、皺や折れ及び若干の破れも修繕しアクリル入りの額に納めました。染みは所々にあり時代を感じさせる作品です。染み抜きをしないのは時代感を無くさないと言う理由と支持体である和紙を傷めない為であります。現在、美術館に靉光の木炭画や水墨画などが多くが収蔵されておりますが、染み等はそのままの状態が殆んどです。大きさもあり、描き込みも素晴らしく靉光の特徴が随所に全て出ている大変貴重な作品ですので本来ならば美術館が収蔵するべき作品です。しかしながら現在、残念ながら美術館は無力。全国の幅広いコレクター、特に靉光ファンにこの作品を所蔵して頂きたくオークションに出品いたします。本作品の支持体は和紙・技法は木炭・サイズは48cmX62cm・額装・「靉光の会鑑定証書付き」・1枚目の画像でアクリルによる反射光が有ります。2枚目・3枚目の画像が鑑定書の表裏です。状態等感じ方には個人差がございますので画像でご確認ください。「靉光の会鑑定証書付」にて真作保証ですので、全国の靉光ファンはこの機会を絶対にお見逃しの無い様にコレクションにお加えください。宜しくお願い申し上げます。二度とコレクションできない作品だと認識しております。

 ***作品解説***

 この作品は、なだらかな山々が描かれているが、よいものとは思えない。中国大陸にある山々なのだろう。


 作品「梨」(仮題、古物美術商玄々堂取扱、、中央部にデジカメによるスポット光照射写りあり、所有者不詳)



 ***出品者(古物美術商玄々堂)による作品紹介***

 今回出品します作品は非常に貴重で小品ながらとても趣のある絶対量の少ない靉光作品です。淡彩の素描ですので靉光のコレクターが居られましたら、お気軽にコレクションに加えて下さい。作品は紙に淡彩で大きさは36cmX26cmで、既に額装を済ませてあります。紙の状態は画像でご確認ください。折れや若干の焼け端のほうには若干の破れがございますが、マットで隠れておりますので全く問題ございません。作品の真性は保証しますので安心してご入札をお願い致します。最低落札価格は一切設定致しませんし、不当な吊り上げや親引きもございません。安心して競争入札をお楽しみください。***真作保証の意味は所定の鑑定人がいる場合、その所定鑑定人が贋物と判断した場合は落札金額及び振り込み手数料並びに送料及び鑑定に要した費用(鑑定代実費分)の一切を全て返金する、と言う事です。但し、鑑定証書が欲しい方は自己負担にて所定の鑑定機関に鑑定依頼をして下さい。本作品の所定鑑定会は「靉光の会」ですので、鑑定が通れば鑑定証書代金が6万円かかりますことをご了承願います。

 当方(玄々堂)数十年に渡り美術業界に生息し美術業を生業としてきました。言わば玄人ですので面白い美術業界の表側や裏側を少しだけ紹介すると共にこの業界の用語や常識も含め素人の皆様にお教えしましょう。今後のご参考にして頂ければ幸いです。「鑑定証書(通称シール)」について。この業界は常に真贋の問題を抱え生息しているのです。以前(30数年前)は洋画には鑑定証書などは全くございませんでした。無論、当時から学者の意見を聞いたりしたことはございましたが、今のような制度は無かったのです。何故無かったのか?簡単に言えば必要が無かったのです。大体の画商は良く勉強し命がけで絵扱ったし、その分絵の事も分かった。学者も必死になって研究し足でかせぎ汗を流した。今は簡単にいうと、業者も学者もその全てが崩壊した状態です。まともに絵が判る業者がいなくなり、絵を本気で研究する学者もいなくなった。だから、一時が万事シールが無いと不安でお客さんに絵が売れ無いのです。本来、鑑定証書などとは無縁の世界にいるはずの美術館でさえ鑑定証書を要求する所が多くなってきている。全く信じられない状況です。結局、鑑定証書は絵の全く判らない業者(実際の話、大部分とご理解ください)や素人さんの疑心暗鬼を無くし、業界が活性化し絵画の市場流通を効果的に促進させる為の物なのです。本来、美術館には必要の無い物の筈。ビックリ。***「鑑定証書の信憑性について」 これは業界人の私に取りましては、喜怒哀楽の世界。間違い無いと思って、取れなかったときは、怒と哀です。駄目だろうと思って取れたときは、喜と楽です。鑑定機関にも色々有りますね。最高権威・東京美術倶楽部の鑑定証書。水戸黄門の印籠と同じ役目です。しかし、全ての作家の鑑定を請け負っている訳ではございません。当然の話ですが。信憑性は私の意見では80%前後かな。次に遺族や洋画商共同組合の作家それぞれの鑑定会。遺族(中にはしっかりとした遺族もいる)やここは少しいい加減な気がする。あくまでも私の個人的な意見です。日動画廊の作家それぞれの鑑定会。ここは波が激しい気がする。良く言えば厳しい。悪く言えば適当。信憑性はどちらも80%前後かな。私なりの結論。鑑定証書は一つの目安。有ればそれに越した事は無い。無くても(鑑定書が取れなくても)良い物は良い。有っても(鑑定書が付いている)悪い物は悪い(贋物)。と言う事を素人さんは理解した方が得だと思います。後はご自分の美意識を高める事に尽きると思います。鑑定機関に携わるそれぞれの業者の方や学者の皆様神経の使う作業をして頂きご苦労様です。出来ればもっと安く鑑定証書を発行してください。鑑定のみの場合(駄目と判断された場合)は無料にすべきです。がっくり来た上に2万円から3万円はきついです。***「真贋保証について」所謂、業者の市場(交換会)などでも2種類ございます。これは通常の最近流行(ここ四・五年)のオークションでも全く同じです。保証する会と無保証の会。簡単に言いますと無保証の場合は自分で判断して下さい。真贋(本物か贋物か)は責任を持たないし保証もしないよ。出品者が贋物と思っていようがいまいがそんなのは全く関係ございません。これがこの業界です。覚えておいて下さい。即ち保証していない物は限りなく怪しい(本物なら保証できるはず)、と思って下さい。後は自己責任の世界です。これは業者間でも素人相手でも全く同じ原則です。騙し騙されの世界です。騙された場合はクソッと思い勉強する。目を鍛えていく。これしか無いのです。いつまでも女々しい事を言っていても始まりません。素人さんも同じです。オークション(競争入札)で保証の無い絵画を購入される時は慎重に入札される事をお薦めいたします。何故ならオークションの出品者は受身です。入札者が能動なのです。主導権は入札者様にあるのですから、よく吟味してからご入札をお願いしたいと思います。騙されない為の鉄則です。特にヤフーオークションは出鱈目です。殆んどの有名所の絵画は駄目だと私は思います。無論、簡単な画像だけで判断が付かないものも確かにございますが、殆んどの絵画は現物を見るまでも無く駄目でしょう。結論、有名所の絵画は本物と思って入札しない事。もしも、お気に入りの絵が有るならば、おもちゃ(贋物と承知して)と思って購入しよう。購入後に文句を言ったて、腹を立てたって女々しいだけですから止めましょう。今回はこれくらいで。又、機会がございましたらお会いしましょう。


 作品「植物」(仮題、古物美術商玄々堂取扱、所有者不詳)



 ***出品者(古物美術商玄々堂)による作品紹介***

 植物を描いた鉛筆及び彩色素描デッサンです。単純に描かれておりますが、随所に靉光らしさを感じるプロの作品です。紙は時代感がありますが、破れ等はございません。画像でご確認をお願い致します。本作品も業者の交換会で初品として出てきた物ですが、誰も気が付かなかった作品です。サイズは27X40で額装済み。左下に印有り。鑑定書はございませんが、作品の真性は保証いたします。この機会に是非ともコレクションにお加えください。お見逃しの無い様にお願い致します。ご落札後、鑑定書を取得される場合はこの絵は素描の為、鑑定料及び証書代が込みで、別途6万円(油彩は8万円)かかりますが、自己負担にてお願い致します。万が一、取得できない場合は落札代金及び鑑定に要した実費を返却いたしますので安心してご入札をお願い致します。

 ***作品等解説***

 靉光作品として、「丸の中に石」の印章があるデッサンが二人の古物美術商より取り扱われていた。その二人とは、古物美術商物故堂先代、古物美術商玄々堂である。この二人は、間違いのない(靉光の会鑑定証付き)靉光油彩画を所有していたときがあった。
 

 作品「草花」(仮題、真贋不明、鉛筆素描、古物美術商物故堂2代目取扱、屋根裏部屋の美術館蔵)および愚庵「葡萄図」(180度回転、バークコレクション)

 

 ***出品者(古物美術商物故堂2代目)による作品紹介***

 本作品は30歳代という若さでこの世を去った夭折の画家と称される広島出身の画家・靉光の鉛筆素描画です。支持体は紙・技法は鉛筆・サイズは 54.5cmX33cm・額なし。印あり。落札者様がこの絵に合う額装をしてお楽しみ下さい。画面の状態は大きなダメージは無く概ね良好です。単純さの中 にも緻密な計算で描かれた草木などの素描は靉光が好んで描いた題材の一つです。本作品と同じような構図のデッサンが残っております。本作品は大きさもあり そう言う意味からも大変な貴重品です。年期の記載が無い為に詳しい制昨年は判りませんが、遺族所有の素描「蓮と太陽」と同年代と思われます。靉光は草花が 好きで題材として数多くの絵を描きました。確かに靉光は出征前に1斗カンに絵を入れて燃やしました。遺族の話では戦争が終って帰ってきたらいつでも絵は描 けると言っていたらしいです。しかし、燃やした絵は精々10枚前後だということです。それも手元に残っていた作品のうちであり、それまでにも数百枚の絵を 描いていました。中国の大連にも多数の絵が残されています。帰路の朝鮮半島にも滞在しておりますので残ってるかかもしれません。誰にも悟られずに今でも何 処かに多くの作品が息を潜めて眠りから覚めるのを待っている事でしょう。今では美術関係者が探さないのです。本作品は偶然にも業者の会で私の目に留まった物です。誰も気が付きませんでした。所謂、掘り出しと言う 物です。本作品に関しても無論、前所定鑑定機関の「靉光の会」が無い今、正しい鑑定を出来る方がいない。一応・・・倶楽部が鑑定をしておりますし、洋画商・・・でも靉光の鑑定をしていますが、両方とも???です。そういう理由から本作品は未鑑定品です。まあ鑑定書が付く可能性は本作品に関しては高いと思 いますが、保証の限りではございません。上記の事柄をご理解いただいた上で、この絵を自分の目で見て判断して気に入った方がコレクションに加えていただけ ればと思い出品します。少なくとも私は「靉光の真作だと判断しております。」

 ***絵の内容を出品者に質問したときの回答***

 質問ありがとうございます。画面右端から木の幹から細い枝が上部に伸びていき、途中細い枝に蔓のようなものが巻きついていて最上部には花のようなものがご ざいます。と同時に下部の恐らくは土の中から咲きかけの薔薇が薄く描かれています。総じて何が描かれているのか良く判らないのが現状です。宜しくお願いします。

 ***作品解説***

 この作品を解説すると、「これは、まるで水墨画のようである。靉光は、東洋絵画を学び、独自の内省的シュルレアリスム風のものを作り上げた」と、こんなものになるのだろうか。

 しかし、この作品をしばらく見続けると、愚庵「葡萄図」(バークコレクション)を思い出した。
 この作品は、愚庵「葡萄図」を逆さにして、蝉を取り除き、余分なものをカットしたものである。

 なお、この作品にある印章は作品「山」(靉光の会鑑定証付き)にあるものと同じ可能性が高いものである。


 作品「樹木の図」(仮題、真贋不明、鉛筆素描、gentoushya取扱、屋根裏部屋の美術館蔵)およびブリューゲル「大きな魚は小さな魚を食う」

 







 ***作品解説***

 この作品には、ブリューゲル (ルネサンス期のネーデルラントの画家)の作品「大きな魚は小さな魚を食う」(版画)と同じようなものが描かれている。
 それは、何かをくわえたカエル、足の生えたオタマジャクシ?、そして何かをくわえた魚であり、そして、それらはブリューゲルの作品に描かれているものである。
 なお、このブリューゲルの作品は、著名画家ボッシュ(ルネサンス期のネーデルラントの画家)の名で出版されたものである。
 作品「樹木の図」は、どことなく嫌な作品である。


 作品「山」





 ***作品解説***

 作品「草花」が愚庵「葡萄図」であり、作品「樹木の図」にはブリューゲルの作品一部が隠されるように描かれているなら、この作品「山」にも何かあるに違いない。
 そのように考え、この作品を眺めるといくつもの人体が描かれている様にも見える。
 この作品は、裸の人達を分からないように描いたトリックアート(だまし絵)である。
 また、何かをくわえた生き物(カエル?)がいる。この何かをくわえた生き物というものがブリューゲルの作品にある。


 ボッシュ「聖アントニウスの誘惑」(一部)



 ***作品解説***

 ブリューゲルはボッシュの作風を受け継いだように作品を描いている。
 この作品には、奇妙な生き物をモチーフとした不思議な世界が描かれている。


 ボッシュ「砂漠の洗礼者聖ヨハネ」(一部)

  

 ***作品解説***

 この作品は、熱帯性植物と鳥をモチーフとした不思議な世界が描かれている。
 そして、ここにはいくつもの顔がある。この作品は、一種のトリックアートである。


 作品「シシ」(1936年)



          

 ***大谷省吾氏による作品解説(BM美術の杜 2007,Vol.13 「生誕100年 靉光 AI-MITU」文/大谷省吾)***

 靉光が転機を掴んだのは、ライオンの連作によってだった。上野動物園に通い、さまざまな動物をスケッチするうちに、集中して取り組んだシリーズである。1936年(昭和11年)の中央美術展で準賞を受けた《シシ》はそのひとつ。しかし、どこにライオンがいるのか、一見したところよくわからない。じっと見ていると、左を向いて体を丸めてうずくまる姿が、ようやく見えてくるのだが、それにしても私たちがふつうライオンと聞いて思い浮かべる姿とは、かけ離れている。しかし、存在感は強烈である。この存在感は、どのようにして生み出されたのだろう。
 《シシ》に近づいてよく見ると、絵具が何層も重なれているのが分かる。ある部分では、パレットナイフのようなもので削った跡がある。光と影の対比は強いが、とはいえ立体感をだすことはあまり意図されていない。むしろべったりと、油絵の具の材質感を強調するような塗り方がなされている。ここでは、ライオンの存在感とが、大画面の中でせめぎあっているのだ。

 ***作品解説***

 ライオン(シシ)は中央やや右下に大きな口を開いて笑っているように描かれている。中央やや左上には、大きな尻がある。そうすると、この尻の形、色からすると、左を向いている動物は、熊だろうか。そして、その間に二匹の黒い動物が立っている。
 また、熊の顔に見える部分は、ウサギにも見える。そのウサギの右上には、黒い動物が何匹かいる。
 作品下には、蛇に巻き付かれたような犬がいる。かといって、犬は苦しんでいる訳ではなく、穏やかな顔をしている。
 そして、作品左下には、蛇の大きな口の中にいる犬?がいる。作品左上には上に頭を持ち上げ、口を開き餌を飲み込もうとしているカバがいる。上部中央やや左には、ゾウの鼻らしきものがある。作品右上には、三匹の動物が描かれている。左は牛で、右が犬である。そして、その真ん中には、耳の大きな、目が光っている奇妙な動物が描かれている。三匹とも魔物だろうか。
 この作品は、この作品は、トリックアートで、楽しい動物園が描かれている。
 しかし、ここには、存在感のない男もいる。

 (切り抜きの解説:ライオンと蛇、熊と四匹?の黒い動物、ウサギと数匹の黒い動物、犬と蛇、カバ、ゾウと黒い動物、三匹の動物、アライグマ、狐?と人の顔2、存在感のない男と人の顔)


 作品「目のある風景」(1938年)







   

 ***宮川寅雄氏による作品解説(「三岸好太郎 長谷川利行 靉光」宮川寅雄著、講談社)***

 この絵は「ライオン」に代表される作風のあとにくる靉光のイメージを代表する作品である。
 さだかにわかりにくい奇妙な物体のなかで、大きな目がギョロリとひかっている。しかも、このさきにあらわれたグロテスクなものは影をひそめてしまった。堅牢な構成と、比較的明朗な思念が表出されている。これをひとつの地上のオブジェとみてよかろ。このオブジェはなにになるかは分かったものでない。
 そういうカオスを、がっちりうけとめている。目だけがものをいっている。

 ***大谷省吾氏による作品解説(「生誕100年 靉光 AI-MITU」大谷省吾 文/「BM美術の杜」 2007,Vol.13)***

 ライオン連作によって注目を浴びた靉光は、続いて1938(昭和13)年、第8回独立展に《風景》を出品して独立賞を受賞する。今日、《目のある風景》の名で知られるこの作品は、しばしば日本のシュルレアリスムの代表作と呼ばれる。

 ***ホームページ 靉光「目のある風景」/美の巨人達***

 この作品はライオンを描いた連作と密接な関係があるという説があります。『眼のある風景』の左側の塊は上を向いたライオンの頭部に見え、右側は膝を曲げたライオンの足に見えるというもの。この作品の構成の土台となったのはライオンだったのかもしれません。

 ***作品解説***

 作品「シシ」には、多くの動物が隠し絵的技法で描かれていた。そして、シシは張り子の虎のように、おもしろおかしく大胆に描かれていた。
 同様に、この作品「目のある風景」には、多くのカメ、魚、顔が隠し絵的技法で描かれている。
 作品中央の目であるが、この目の横に甲羅のようなものがある。この目は、甲羅を持った生き物のものと分かる。作品左の白い部分には、二匹のウミガメが描かれていることから、これもウミガメと思う。そのようにして見ると、このウミガメの口が分かった。この口の大きさからして、目の大きさもそれほど不自然ではない。作品「シシ」のライオンと同様、奇抜で大胆に描かれたものである。
 また、その下の方には甲羅のある奇妙な生き物が描かれている。このような奇妙な生き物は、ボッシュが得意とするものである。
 作品右下には、深海魚のような魚が描かれ、その上には鮫の頭のようなものが数個描かれている。それら以外にも数匹の魚が隠れている。そして、多くの人の顔がある。
 作品全体に対して左四分の一には二匹のウミガメ以外に多くの顔が描かれている。この部分には、非常に大きな二つ?描かれている。
 この白いウミガメの下には、人の顔がある。
 この作品は多くのカメ、魚が詰め込められた、不思議な水族館が描かれている。
 そして、ここには仮面がある。仮面の左側が人体であり、その肩がカメの顔となっている。


 アルチンボルド「水」(1568年頃、ウイーン美術史博物館蔵/「アンドレ・ブルドン 魔術的芸術」)



 ***作品解説***

 これは、ジュゼッペ アルチンボルドの作品「水」である。
 これは、魚を寄せ集めた奇妙な肖像画である。
 アルチンボルド(Giuseppe Arcimboldo、1527年 - 1593年)はイタリア・ミラノ出身の画家で、マニエリスムを代表する画家の1人である。彼は、静物画のように緻密に描かれた果物、野菜、動植物、本などを寄せ集めた、珍奇な肖像画の製作で世に知られている。
 作品「草花」が愚庵「葡萄図」から、作品「樹木の図」がブリューゲル「大きな魚は小さな魚を食う」から影響を受けているとしたら、作品「目のある風景」はアルチンボルド「水」から影響を受けたと言っても過言ではない。


 トリックアート



 ***作品解説***

 これは、作品「目のある風景」の一部切り抜きであるが、この部分だけで4種類の顔がある。


 作品「馬」(1938年)





 ***作品解説***

 馬とあるが、その頭の上には狐の顔が大きく描かれている。そして、前足の太ももには、鹿?の顔が見える。また、首の付け根には目がある。また、後ろ足の太ももにも馬の顔が見える。つまり、この動物には、五つの頭が描かれている。白色の部分にも、動物が5,6匹描かれている感じがする。
 そして、白い部分にはいくつもの顔がある。そして、それらはトリックアートと言えるものである。


 作品「鳥」(1940年)







  

 ***作品解説***

 この作品は、ボッシュ「砂漠の洗礼者聖ヨハネ」と同様、熱帯性植物と鳥をモチーフとした不思議な世界が描かれている。
 そして、中央に描かれた鳥は、単に鳥というものではなく奇妙な生き物と言えるものである。
 また、この鳥の斜め左には犬,、黒豹?等が描かれているが、これも隠し絵である。
 この作品は、不思議な熱帯性植物園が描かれている。
 そして、ここには手を額に当てながら振り向いている裸の男がいる。その手は蛇に飲み込まれようとしている。これは、ボッシュの絵に良くあるものである。
 また、頭を抱えた男、男の黒い顔、唇の膨れ上がった男の顔がある。
 さらに、画家だけにしか分からないようないろいろな描き込みがあるようだ。


 作品「蝶」(1941年)



          

 ***作品解説***

 この作品にも、多くの動物と顔が隠されながら描かれているトリックアートである。
(1) 最初の切り抜きは顔であるが、少なくとも5つの顔が描かれている。
(2) 二本の足が描かれている。
(3) 少なくとも3つの顔が描かれている。
(4) 河馬?、鹿?が描かれている。それ以外にも数匹の動物が描かれている。
(5)、(6)、(7) 作品右下、全体の四分の一を占める部分には、怪物が大きな口を開けているようなものがある。これは、同じ年1941年に制作された作品「作品」と同じようなものである。この二つの絵画にある動物の顔の一部が異常にふくれあがったり、あるいは一部が崩れ飛び出して見えるような感覚は幻覚に近いものである。同じ年に制作された作品「二重像」に描かれている感覚、つまり皮膚が異常に盛り上がったように感じる感覚が統合失調症にみられる体感幻覚である。そして、統合失調症の患者が持つ幻覚には、顔の一部が異常にふくれあがったり、あるいは一部が崩れ飛び出して見えるものがある。
(8) 再度、作品を見直すと、そこには非常に多くの人の顔と奇妙な動物が描かれていることが分かる。暗闇の中には、恐ろしい動物の目が多くある。クロアゲハが羽を広げているが、ここには左右の人の目がある。そしてその上にも人の目がある。


 作品「静物(雉)」(1941年)



  

 

 





 ***作品解説***

 この作品には、非常に多くの動物、人が描かれている。その一部を紹介する。空に向かいほえ叫ぶライオン、黒い奇妙な動物、二人の横顔、黄金虫?と大きな口の魚、怪奇な動物、横たわる人。
 空に向かいほえ叫ぶライオンの上口に見える赤い部分は、雉のくちばしでもある。また、怪奇な動物の口とあごは、横たわる人でもある。
 多くの動物が、擬態している。
 

 作品「蝶」(1942年)



 

 ***作品解説***

 この作品にも、多くの黒い動物が隠されながら描かれている。これも、見る者を置き去りにして、画家だけが分かるように描いている。
 そして、狂気に満ちた顔がいくつかある。


 作品「山茶花」(1944年)



 ***作品解説***

 靉光は、花をモチーフとした作品を多く作り出した。それらの作品の多くには、顔が描き込まれている。
 この作品にも、多くの恐ろしい顔が描かれている。


 作品「自画像(白い上衣)」(一部、1944年)



  ***作品解説***

 この画像からでは非常に分かりにくいが、この作品にも黒色背景に何人もの人の顔が描かれている。
 また、作品「自画像(梢のある)」には、作品「二重像」(1941年)と同じように「もう一人の自分」が描かれている。


 作品「祖母」(一部、1923年)





 ***作品解説***

 作品「祖母」(1923年)および作品「父の像」(1917年)にも、何人ものの顔が描かれている。
 作品「父の像」が制作されたのは、10歳頃のときである。つまり、この頃より顔の幻覚があったと考える。


 作品「草花」(Adobe Photoshop による色調補正あり)、作品「樹木の図」

 

 ***作品解説***

 靉光の作品の多くには、顔が隠されながら描かれている事が分かった。
 そして、作品「草花」、作品「樹木の図」を見直すとそれぞれにいくつもの顔が描かれている事が分かった。


 作品「梨」





 ***作品解説***

 再度、作品「梨」を観てみる。
 この作品にも、顔が隠されている事が分かる。


 作品「グラジオラス」(1943年頃、靉光の会鑑定証書付き、古物美術商玄々堂取扱、所有者不詳)





 ***作品解説***

 再度、作品「グラジオラス」を観てみる。
 この作品にも、顔が隠されている事が分かる。


 作品「流水」(1943年、靉光の会鑑定証書付き、古物美術商物故堂取扱、所有者不詳)



 ***作品解説***

 再度、作品「流水」を観てみる。
 この作品にも、多くの顔が隠されている事が分かる。


 作品「蝶」(F30号、1936年、靉光の会鑑定証書付き、古物美術商夢幻堂取扱、所有者不詳)



 ***作品解説***

 再度、作品「蝶」を観てみる。
 この作品にも、多くの顔が隠されている事が分かる。


 作品「菊」(1932年、古物美術商物故堂取扱)



 

 ***作品解説***

 再度、作品「菊」を観てみる。
 この作品にも、多くの顔が隠されている事が分かる。
 白い菊花だけで、一つの顔に見え、また、別の顔の髪の毛としても見える。
 褐色の菊花2つは、両方会わせ馬の顔に見える。左の菊花は、ライオンの顔である。右の菊花は、犬の顔である。その2つの菊花の間に別の動物が存在する。
 それ以外にも、顔がある。


 作品「白薔薇」(古物美術商物故堂取扱、所有者不詳)



 ***作品解説***

 この作品にも、多くの顔が隠されている事が分かる。


 作品「白百合」(1929年、古物美術商物故堂2代目取扱、屋根裏部屋の美術館蔵)



 ***作品解説***

 この作品にも、多くの顔が隠されている事が分かる。


 作品「曠野社」(1928年頃、靉光の会鑑定証書付き、古物美術商物故堂取扱、所有者不詳)





 ***作品解説***

 この作品にも、多くの顔が隠されている事が分かる。


 作品「薔薇」(6号、estel1965jp出品、所有者不詳)





 ***作品解説***

 この作品にも、多くの顔が隠されている事が分かる。


 作品「鯖」(水彩画、1928年制作、真贋不明、半紙破損部分画像修正、屋根裏部屋の美術館蔵)







 ***作品解説***

 先に、「屋根裏部屋の美術館 靉光 古物美術商物故堂取扱作品」で展示した油彩画すべてに顔が描かれていることが分かった。
 この作品「鯖」にも顔が描かれているはずである。
 この作品を画像処理ソフトAdobe Photoshopにより明暗・コントラストの調整を行った。すると、多くの顔が浮かび上がった。


 もう一人の自分

 統合失調症の患者には、「もう一人の自分」を感じる事がある。これが、靉光の作品「二重像」(1941年)に描かれている。
 また、統合失調症の症状に幻覚というものがあり、このなかに人が見える、虫が見えるなどの幻視がある。
 作品「二重像」を制作した靉光は、多くの作品に顔を描いている。私は、これを幻覚からきたものと考える。


 終わりに

 靉光の作品は、ボッシュ、ブリューゲルおよびアルチンボルドの影響を受けている。また、そこには隠し絵的技法が取り入れられている。
 シュルレアリスムとは、夢、無意識に近いもので、雑念を取り除いた心の世界を取り扱ったものである。
 靉光の作品には心を描いたというより、ボッシュ、ブリューゲルおよびアルチンボルド等の作品に隠し絵的技法を用い作っただけであり、シュルレアリスムの定義から外れる。
 作品「目のある風景」は、作品「シシ」に続くもので、作品「馬」の前に制作されたものである。作品「シシ」および作品「馬」は、どう見てもシュルレアリスムの作品ではない。したがって、作品「目のある風景」もシュルレアリスムとは考えられない。
 また、ここに掲載した油彩画総ての作品には、人が描かれている。それは、自画像のようなものではないだろうか。
 そして、その人物には狂気というものを感じる。




****************************************


 靉光「化石」(gentoushya取扱、meiyasu0304取扱、屋根裏部屋の美術館蔵)

  







 この作品「化石」にも多くの顔が描かれている。
 額は、作品「白薔薇」および作品「白百合」と同じ種類のものである。また、題「化石」における「」が作品「白百合」にある茶房「リリオム」の「」と同じ筆跡である。
 
 この緑色の部分が、肥大化した唇である。
 向かって左上には頭にこびりついた顔がある。

 また、裏面には多くの顔のようなものが描かれている・・・。


 靉光「ばら(幻想的なばら)」(仮題、gentoushya取扱、所有者不詳)

 



 薔薇の花は顔に見える。また、背景にはいくつもの顔が描かれている。


 作品「茄子」(gentoushya取扱、屋根裏部屋の美術館蔵)






 作品「アケビ」(gentoushya取扱、屋根裏部屋の美術館蔵)





 この作品の背景には、何かが描かれていることは確かである。


 作品「?」(gentoushya取扱、所有者不詳)











 この作品に描かれているものは、海底にある岩と海草だろうか。
 しかし、靉光作品すべてに顔が描かれていると思いながら、この作品を見ると描かれているものは顔としか思えない。
 また、裏面は絵の具による汚れのようなものがあるが、これは故意につけられたもので、描かれているものは多重像による顔である。

 そして、このことからも、作品「鯖」、作品「化石」裏面には、顔が描かれていると確信できる。

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