屋根裏部屋の美術館


精神分析的絵画論

                                                  2004.10.30
2007.1.6 改訂
2007.3.16 追記
                                                 中村正明
                                           masaaki.nakamura.01@gmail.com

 はじめに

 精神分析的絵画論と表題に書いたが、これは病跡学(びょうせきがく パトグラフィー Pathographie)の研究である。病跡学とは精神医学の一分野で、歴史的に著名な人物の精神医学的研究をおこなう学問である。

 ユング派の精神分析家は、「絵画、音楽、文学などの芸術は、意識下で制作されるが無意識と非常に関係が深い」と言っている。
 
 また、「巨匠と呼ばれる人達の多くの精神には問題がある」(「天才と狂気」 1864年 著者イタリアの精神科医チェザーレ・ロンブロゾー)とある。
 同様に、「『特に有名な』人物だけをえらびだしてみれば、78人のうち、(1) いちどは精神病的状態をしめしたもの37%以上、(2) きわめて精神病質的なもの83%以上、(3) 軽度の精神病質的なもの10%以上、(4) 健康なもの約6.5%となる。・・・」(「天才 創造性の秘密」 W.ランゲ・アイヒバウム著 島崎敏樹・高橋義夫訳 みすず書房)とある。
 
 しかし、日本の画家についての精神的な問題はあまり取り上げられてはいない。それは、精神疾患というものが非常に偏見に満ちて捉えられていることが一因ではあるが、絵画と精神疾患との関連を捉えることが難しいことにもある。
 
 それでは、どのように絵画と精神疾患の関連を捉えたらよいのであろうか。
 濃い緑色のワイシャツに真っ赤なズボンをはいて町中を歩いている人の精神にはやや問題があると考える人は多いだろう。それと同様に、濃い緑色と濃い赤色の組み合わせを用いた絵画には画家の精神的問題を感じる。しかし、絵画の背景色に赤と緑の組み合わせを用いることにより「力強い絵画」との評価を得ることがある。また、誰もが赤い花の薔薇を描くときは緑色の葉も描く。
 そこでの違いを明確に分けることは難しいかもしれない。しかし、不自然な色彩の使われ方をした絵画には、濃い緑色のワイシャツに真っ赤なズボンをはいている人の精神に問題があるのと同様に、問題がある可能性が大きい。
 そして、そのように問題を感じた作品の画家について履歴等を調べると、画家には精神的問題があることが分かった。
 ただし、先に履歴を調べ、その後、その作家の作品について調べ、問題を感じる作品があったということではない。
 

 巨匠と精神障害

 巨匠といわれている人の多くには精神疾患を患っている人が多いことは、数々の文献等で言われている。
  1. 「巨匠と呼ばれる人達の多くの精神には問題がある」(イタリアの精神科医チェザーレ・ロンブローゾ 著書「天才と狂気」 1864年)
  2. イギリスとアイルランドの少なくとも一つの賞を取った詩人、小説家、芸術家を調べたところ、38%が気分障害(双極性障害および単なる鬱病)の治療歴を持っていた。(Jamison)
  3. 「30年ほど昔になりますが、ある新聞記事に『科学と芸術の領域で最も偉大な業績を残した天才を40人ほど選び出したら、精神病と無縁と思われるのは3人だけだった』(インターネットよりの情報) 
  4. ニュートン、アインシュタイン、エジソン、コペルニクス、ダーウィン、カント、ヴィトゲンシュタイン、ハイネ、カフカ、プールスト、ベートーベンの近親者には精神病の患者がいる。(「天才と分裂病の進化論」デイビィッド・ホロビン著 金沢泰子訳 新潮社)
  5. 精神に問題があった有名人:双極性障害  カート・コバーン、 ウィンストン・チャーチル、 エブラハム・リンカーン、チャイコフスキー、シューマン、宮沢賢治、三島由紀夫、 夏目漱石、北杜夫、 中島らも、 統合失調症 ヴァン ゴッホ、ムンク、草間彌生 神経症 泉鏡花。
 画家の精神的問題を理解するために、精神疾患とそれに関与する神経伝達物質について述べる。精神疾患に関与する重要な神経伝達物質は二つである。それは、セロトニンとドーパミンである。また、ここで述べる精神疾患で重要なものは統合失調症と双極性障害である。
 もちろんこの二種類の神経伝達物質と二種類の精神疾患ですべてが説明が付くわけではない。本当におおよその分類である。
 それは、幻覚が見えたら統合失調症か双極性障害とするような非常にラフな分類です。

 主な神経伝達物質の働き

@ セロトニン
  行動には抑制的に働くが、気分は興奮させる方向に働く。脳のどの部分でセロトニンが不足しているかによっても異なる病気としてあらわれる。体温調節、血管や筋肉の調節、攻撃性の調節、運動、食欲、睡眠、不安などに関わっている。
A ドーパミン
  神経を興奮させ、快楽と陶酔感を与える。また攻撃性、創造性、運動機能等を調節する働きがある。
B ノルアドレナリン
 神経を興奮させる神経伝達物質である。不安や恐怖を引き起こしたり、目覚め、集中力、記憶、積極性、痛みを感じなくするなどの働きがある。またストレスとの関連が深く、ストレスがノルアドレナリンの働きを高める。
C グルタミン酸
  神経を興奮させるアミノ酸である。てんかん発作に関わっている。
D アセチルコリン
  神経を興奮させる働きがあり、学習・記憶、レム睡眠や目覚めに関わっている。
E γアミノ酪酸
  神経の働きを鎮めるアミノ酸。不安を鎮める、睡眠、けいれんを鎮める、筋肉の緊張を解く、などの働きがある。



 統合失調症は、神経伝達物質であるドーパミンが主として関与する。ただしこれは、単にドーパミン量の過不足ではない。また、双極性障害における鬱状態およびたんなる鬱病は、神経伝達物質であるセロトニン(およびノルアドレナリン)が関与する。ただしこれも、たんにセレトニン量の過不足ではない。


 統合失調症および双極性障害とは 

 以下の内容は、統合失調症および双極性障害について記載されている本よりの抜き書きである。ただし、たんなる鬱病と双極性障害の鬱状態とは異なるため書き換えて記載した。
 なお、書き換えたために別な問題が生じた可能性もある。
  1. 統合失調症(精神分裂病)および双極性障害(躁鬱病)を二大精神病と言われていた。
  2. 統合失調症は、現在、世界のどの部分、どの民族をとっても必ず存在する。そして、だいたい生涯罹病率は人口の1% 前後である。また、双極性障害の生涯罹病率も人口の1% 前後である。たんなる鬱病の生涯罹病率は人口の10%(〜20%)前後である。
  3. 統合失調症の年間発症率は10,000人あたり0.5〜5人である。
  4. 統合失調症を誘発する遺伝子がある。双極性障害も同様である。
  5. 統合失調症および双極性障害は脳の扁桃体および海馬等の縮小が見られる。
  6. 統合失調症および双極性障害は幼少期の問題のある育てられ方も要因の一つである。
  7. 統合失調症および双極性障害の発症には、ストレスが大きく関わっている。当然、単なる鬱病も同様である。
  8. 統合失調症は、思春期から20歳代半ばにかけて好発する。陽性反応と寛解が繰り返されるうちに、しだいに重篤化していく、難治性の慢性疾患である。
  9. 双極性障害の初発年齢は20歳代前半である。
  10. 統合失調症の症状は大きく分けて陽性反応(妄想、幻視、幻聴、思考障害、奇妙な行動等)、陰性反応(感情鈍麻、会話の貧困、快感消失、社会性の喪失等および認知障害(集中力、記憶力、整理能力、計画能力、問題解決能力等に問題)がある。
  11. 双極性障害および単なる鬱病では感情の妄想(心気妄想、貧困妄想、罪業妄想等)を持つことがある。
  12. 殺人に占める精神障害者(精神病者、精神薄弱者、精神病質者およびその疑いがある者、性格異常者、覚醒剤・麻薬常用者、有機溶剤乱用者、アルコール中毒者)の割合は14.6%と非常に高率である。
  13. 統合失調症の自殺率は10-15%位である。
  14. 双極性障害および単なる鬱病の自殺率は15%位である。自殺者の半数は双極性障害および単なる鬱病を患っていた。


 精神病の分類について 

 精神病について述べるわけですが、この精神病について正確に記することは難しいと考えている。なぜなら、この分類自体が時代により変わっているからである。

 クレッチマーは、「正常レベルの分裂気質と、精神病レベルの分裂病の間にあるのが人格障害レベルの分裂病質とし、分裂気質−分裂病質−分裂病という正常から異常へのグラデーションがある。」と言っている。

 また、古くから使われてきた分類に次のようなものがある。

1. 精神欠陥(医学的治療の対象としてあつかわれないもの) 
@精神薄弱 A性格異常(精神病質)

2. 精神疾患(精神疾患医学的治療の対象となるもの)
@内因性疾患(その人の体質のように生れながらにしてそなわってきた心の質):二大精神病(精神分裂症、双極性障害)
A外因性疾患(身体の外から病気の原因となるものが入り込んおこる病気):アルコール、シンナー、麻薬および覚醒剤等の薬物の中毒による精神障害。頭部外傷後遺症、コレステロールを主成分としておこる脳動脈硬化症、老人性痴呆、そのほか糖尿病・白血病等の病気に伴なっておこる精神障害
B心因性疾患(ストレスやショックなど心に何かの刺激が加わっておこる病気)
神経症(不安神経症、パニックディスオーダー、強迫神経症、恐怖症、ヒステリー、心気症、抑鬱神経症、神経衰弱、離人神経症等)、心因反応(心因性精神病、症状は二大精神病と同じようなものが発現してくる。幻覚や妾想などを認めることもあり、症状からだけではいわゆる精神病と区別が困難である。症状からだけではいわゆる精神病と区別が困難である。心因反応と精神病との診断の区別は、心に加わった刺激があるか否かである。

 しかし、これ以外にもDSM-IV(米国精神医学会診断マニュアル第4版)とICD-10等の分類がある。以下はDSM-IVに記載されているものである。ただし、診断マニュアルとして捉える必要がある。

気分障害
1.双極性障害
 @T型双極性障害(躁病と鬱病)
 AU型双極性障害(軽い躁症状と鬱症状)
 B気分循環性障害(軽い躁症状と軽い鬱症状)
 C特定不能の双極性障害
2.鬱病性障害
 @大鬱病性障害(普通に言う鬱病。軽度、中等度、重度に分けられる。)
 A気分変調障害(軽い鬱症状が2年以上続く。抑鬱神経症)
 B特定不能の鬱病性障害
 C抗鬱関連症候群(症状の軽い鬱病、短期の鬱状態が繰り返される鬱病、女性特有の生理的鬱病)
3.一般身体疾患を示すことによる気分障害
4.特定不能の気分障害

統合失調症および他の精神病性障害
このうちの統合失調症について判断基準を記載します。
A:以下のうち2つ(またはそれ以上)、各々は、一ヶ月の期間(治療が成功した場合よりは短い)ほとんどいつも存在。
1. 妄想
2. 幻覚
3. 解体した会話(例:頻繁な脱線または滅裂)
4. ひどく解体した緊張病性の行動
5. 陰性症状、すなわち感情の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如注)妄想が奇異なものであったり、幻聴が患者の行動や思考を逐一説明するか、または2つ以上の声がお互いに会話しているものである時は、基準Aの症状1つを満たすだけでよい。
B:社会的または職業的機能の低下
 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事・対人関係・自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた基準より著しく低下している(または小児期や青年期の発病の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達していない)。
C:期間
 障害の持続的な兆候が少なくとも6ヶ月間存在する。この6ヶ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち活動期の症状)は少なくとも1ヶ月(治療が成功した場合はより短い)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の存在する期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例えば風変わりな信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
D:分裂感情障害と気分障害の除外
 分裂感情障害と気分障害・精神病性の特徴を伴うものが、以下の理由で除外されていること。
 1.活動期の症状と同時に、大鬱病・躁病または混合性のエピソード(症状が発現している状態のこと)が発症している。
 2.活動期の症状と同時に、大鬱病・躁病または混合性のエピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、活動期および残遺期の持続期間の合計に比べて短い。
E:障害は、物質(例:薬物乱用・投薬)、または一般身体疾患の直接的な生理的作用を伴うものではない。
F:広汎性発達障害との関係
 自閉性障害や他の広汎性発達障害の既往歴があれば、精神分裂病の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が少なくとも一ヶ月(治療が成功した場合はより短い)存在する場合のみ与えられる。

 以上の分類は、分類であって定義ではありません。DSM-IV(米国精神医学会診断マニュアル第4版)とICD-10は、診断マニュアルである。
 これらの、診断基準を用いても同一患者を異なる医者が診断した場合は、診断結果が異なることがある。


 PTSD、統合失調症および双極性障害にみられる幻覚について

 PTSD(心的外傷後ストレス障害 Post-traumatic stress disorder)とは洪水、火事、戦争、監禁、虐待、レイプ等により、後に様々なストレス障害を引き起こす疾患である。
 米国では、戦争およびレイプを体験した人が多いため、このPTSDについて多くのことが分かっている。
 この疾患には、強いストレスと遺伝が関与している。
 このPTSDに関する三つの研究論文概要を記載する。
@ 戦争によって起きたPTSDの患者について調べると、脳の海馬と言う部分にが小さかった。PTSD患者の一卵性双生児について調べたところ、戦争に行っていない一方の一卵性双生児も海馬と言う部分が小さかった。つまりPTSDは遺伝が大きく関与している。
A レイプを受けた直後、100%の人がPTSDになる。その後、徐々にPTSD の割合が低下していく。
B カンボジア等で拷問を受けた人の多くが、治ることがないようなPTSDになっている。

 ひとつの論文では、PTSDは遺伝が大きく関与している。また、もう一つの論文では、ある種の強いストレス(レイプ)を受けた場合、100%の人がPTSDになると言っている。そして、時間とともにその割合が下がる。しかし、拷問のような強いストレスを長期間受けるとなかなか治らないPTSD患者が非常に多い。と言っている。
 これは、強いストレス(戦争、レイプ等)でPTSDになる。そのPTSDが長く続く人は、脳ははじめから障害を持っていて、それは、遺伝による。
 また、そのストレスが非常に強く長期に受けた場合(長期の強い拷問を受けた場合)、遺伝的要因がない人でも脳に障害が起き、PTSDは非常に治りにくなる。
 言い換えると、PTSDだけをみては、それが遺伝によるものか、強いストレスを受け誰にでも発症するようなものなのか、あるいは耐え難いストレスによるものかは分からないと言うことである。しかし、遺伝および強いストレスが関与していることは確かである。

 ここで取り上げる絵画は、精神に問題がある人の絵画である。そして、それは絵画に問題が表れているものである。

 幻覚は精神病(統合失調症および双極性障害)および神経症(離人症やPTSD等)で起きます。
 絵画に幻覚のようなものが描かれていたなら、遺伝的要素、幼少期でのストレスおよび戦争などによるストレス等を画家が持っていたことになる。


 幻覚は精神疾患により見られるが、幻覚を起こす薬物を用いることでも起きる。薬物による幻覚から、精神疾患による幻覚がどのようなものかと言うことが分かるはずでるあ。

 薬物と視覚

 統合失調症は脳内のドーパミンの伝達異常によるというドーパミン仮説が提唱されている。また、気分障害(双極性障害および単なる鬱病)はセロトニンとノルアドレナリンの伝達異常によるという仮説が有力視されている。
 また、統合失調症および双極性障害では幻視が起きる。
 これは、脳内神経伝達物質の伝達異常で幻覚が起きる。ただしこれは、脳内神経伝達物質量を意味するものではない。
 また、脳内神経伝達物質の伝達系に作用する薬物を用いた場合でも同じようなことが起きる
 つまり、脳に作用する薬物を用いた場合、精神疾患の患者が見るものと類似なものを見ることが出来る。
 覚醒剤を乱用すると、幻視及び幻聴が起きる。これは脳に障害が起きるからである。
 かって、サイケ調と言うものが流行った。サイケとはサイケデリックの略だが、これはLSD等の幻覚剤により見た幻覚的なものである。サイケ調とは、「幻覚的。幻覚剤によって生ずる幻覚状態に似たさま。この状態を想起させる極彩色の絵・デザイン・音楽などについてもいう」である。
 LSDは一部のセロトニン・レセプターと結合して、セロトニンの働きを増強する。
 LSDを飲むと、身のまわりの何でもない鈍い色彩のものが色鮮やかになり、輪郭が虹色に滲んだり、歪んできたりする
 抗HIVの副作用に関した記事には、「躁鬱になったり、極彩色(一般に濃くはでな色彩。濃彩。)の夢を見たり・・・。」(エイズ20年目の現実、2004.7.21、読売新聞)というものがあった。 

 ゴッホは精神に障害を起こし精神病院に入院したとき、抗精神病薬を飲み、それが脳内アミンのアンバランス(精神病)とともに抗精神病薬が脳内アミンの代謝等に影響を与え、特殊な視聴覚障害を起こしたという説もある。



 精神に問題を抱えた人が描いた絵画

 画家は、ひとの作風をまねて制作することもるが、多くは、画家自身が感じたものを描く。それは、心の描写であり、精神の反映でもある。つまり、絵画より画家の心や精神を感じ取ることが出来る。
 それでは、画家の精神に問題がある場合は、どのような絵画となるのか。
 ひとつには、心に問題を抱えた子供が描いた絵について書いた本がる。
 『なぜ、その子供は腕のない絵を描いたか』(藤原智美 祥伝社)という本には、「近年腕のない絵を描く子供が増えてきている」と書かれている。そして、はっきりした原因は不明としながらも、過干渉が原因ではないかと書かれてる。つまり、過干渉を受けた子供のうち精神に問題を抱えるようになった子供のなかには、腕のない人の絵を描く。つまり、腕のない人を描いた子供は、心に問題を抱えていると言うことである。
 また、阪神大震災を経験した子供は直後には黒あるいは赤を多く用いた強烈な色彩の絵を描く。同じように、終戦直後の沖縄の子供達、広島の子供達も強烈な色彩を用いて絵を描いた。もちろん、外国でも同様な現象が見られた。

 ある時、インターネットオークションで依岡慶樹という画家が描いた顔のない人の絵画を多数見つけた。それらの絵画は、ぼやけた色彩はっきりしない輪郭が特徴であった。
 そしてその後、依岡慶樹が描いた非常に鮮やかな色彩の絵画を見つけた。
 この画家について調べると、精神状態に大きな変化があったことが分かった。
 この画家は、病気により死というものに直面していた時(鬱的精神状態)には顔のない人をぼやけた色彩とはっきりしない輪郭で描き、健康を回復した時(躁的精神状態)には非常に鮮やかな色彩で人を描いたのである。
 
 これらを、双極性障害(躁鬱病)系の画家による作品の特徴と考えた。
 しかし、画家の精神に問題がなくても、非常に鮮やかな色彩を用いることにより美しい作品を作り出すことがある。そのため、双極性障害(躁鬱病)系の画家に見られる作品の特徴とするには必ずその二種類の絵画が必要です。ただし、精神に問題のない画家はあまり極端な色彩を用いることはほとんどない。
 
 双極性障害(躁鬱病)と統合失調症(精神分裂病)が2大精神病と言われていたが、もう一方である統合失調症(精神分裂病)の患者に見られる作品の特徴はどのようなものなのか。
 ただし、統合失調症という精神病までに至らない精神病質者も同じような傾向があるので、統合失調症系の画家による作品の特徴とした。パラノイア(妄想性人格障害)、分裂病質人格障害、分裂病型人格障害なども統合失調症と同じような症状を示すことがあるのでこれらの疾患も含める。

 統合失調症系の画家として草間彌生が知られている。
 その絵画の特徴は、奇妙な色彩と、斑点模様である。
 また、統合失調症を患った画家ゴッホとムンクの作品を見ると、対比する色彩「赤と緑」および「赤と青」の組み合わせを用いたものがある。それらの色彩の使われ方は、私のような絵画の技法に関して素人には非常に不自然な使われ方に感じる。この不自然な対比した色彩の使われ方を、統合失調症(精神分裂病)系の画家に見られる作品の特徴と考えた。

 統合失調症(精神分裂病)では、幻覚・幻聴以外に景色が灰色に見えるようなこともある。

 また、「精神病とともに生きる」(著者:ビクトリア E モルタ 訳者:林建郎 星和書店)には、精神を患った人のものの見え方が書かれている。
 「私は暗闇から開放された。私はまるで太陽の輝かしい白熱光を見ることが出来る宿命をもって生まれてきたようだ。」

 「米国での精神病(統合失調症)疑似体験装置で患者の視聴覚を体験したが、声にはエコーがかかり色もプリズムを通して見るようであった。」(「地域精神保健と生活臨床 5月家族会勉強会」 東京都立精神保健福祉センター 伊勢田堯所長)・・・(補足事項 「製薬会社ヤンセンファーマ社のバーチャル・ハルシネーション 米国版」の体験と考える。)


 以上より、幻視幻聴暗闇暗闇から出てきたときに見る光のまぶしさ極彩プリズムを通して見えるような色彩感覚、それらは脳内神経伝達物質の伝達異常であり、それは精神の異常から起きるのである。

 そして、絵画を見て「非常におかしな色彩」で「凄い迫力」等と感じた絵画の作者の精神を美術解説書などに記載されている画家の履歴や行動より調べると、精神に大きな問題を抱えていることが分かった。


 双極性障害における幻覚

 調べていくと、双極性障害系の特徴がある絵を描く画家は統合失調症系の絵を描くことが多いことに気付いた。

 また、近年の精神疾患と遺伝子の研究では、それらの疾患を併せ持つこともあることが分かってきた。
 また、次のような記事も見つけた。 「多幸性の双極性障害の患者は、双極性障害の患者の40%以下であり、そしてそのうちの3分の1は幻覚と妄想を抱く。」
 これは、双極性障害と統合失調症とが非常に近い関係だと言うことが分かる。統合失調症の主な症状に幻覚と妄想があるからである。
 そのように考えると、双極性障害における鬱状態と統合失調症における陰性反応は非常に近い関係かも知れない。

 ここで言う双極性障害(躁鬱病)とは、躁状態と鬱状態という、二つの精神状態を特徴とし再発を繰り返す難治性の病気である。また、鬱病は鬱状態のみを特徴とする病気で、これはおおよそ15%の人が一生に一度はかかるという病気である。この二つの病気の鬱状態の症状に大きな違いがないが、異なる疾患である。


 「双極性障害における幻覚」で、双極性障害と統合失調症とが非常に近い関係だと言ったが、後日これに関係する研究内容がインターネット上でのホームページ(南東北医療クリニック 専門外来 松澤大樹医師記載)にあった。

 精神病に対する新たな発見

 南東北医療クリニックの松澤大樹医師によるMRI装置による脳映像に研究報告です。
 そこに記載されている内容は以下の通りです。
 それによると、全ての精神障害が、うつ病、統合失調症、アルツハイマー病とこれらの組み合わせ以外ない。
 また、普通の精神病はすべて(95%以上)うつ病と統合失調症の混合型であり、高次脳機能障害(内因性)という病名が最もふさわしい。
 現在の精神医学では、うつ病と統合失調症が同一人に発症することはなく、特に統合失調症は治ることはないと信じられている。毎日の診療を通してこれが科学的に間違いであり、ほとんどすべての精神病が混合型であることが実証された。


 南東北医療クリニックの松澤大樹医師による「精神病に対する新たな発見」を私の「精神分析的絵画論」に新たに引用した。
 これは、「うつ病と統合失調症が同一人に発症することはない」と現代の精神医学では言われているにもかかわらず、これに矛盾したことが萬鐵五郎および朝井閑右衛門に見られたからである。


 画家と精神疾患

 画家では草間彌生以外はあまり知られていない。

 インターネットオークションで入手した絵画で色彩感覚等に問題が見られた萬鉄五郎、林武、佐伯米子、朝井閑右衛門、依岡慶樹、および梅原龍三郎等は、調べると精神疾患を抱えていたことが分かった。
 彼らが精神疾患を抱えていたということが分かる概略を述べると、以下の通りである。

  1. 萬鉄五郎:統合失調症および双極性障害
     性格は気分障害(双極性障害および鬱病)の患者に見られるもので、その代表例と言ってよい。
     履歴には20歳前後で奇妙な行動を取っていたとある。:統合失調症は20歳前後より発病する。
     人と離れて制作に没頭した。:社会的、感情的ひきこもりである。統合失調症にその初期において、孤独への要求の高まりとして現れる。
     長女を亡くしてから精神的におかしくなった。:遺伝的要因がない場合(つまり統合失調症でない場合)は、このようなことは起きない。
     文章には誤字、判読不明文字が多い。:統合失調症の一症状である認知障害である。 
  2. 林武:統合失調症
     対談では幻視および幻聴があったとある。:統合失調症における陽性反応である。
     他者よりの人物評では、何か壁のようなものがあるような評価となっている。:統合失調症の性格にみられる。
  3. 佐伯米子:統合失調症
     夫佐伯祐三と娘を殺鼠剤(ヒ素)で殺害したとの論文がある。:統合失調症の人は殺人を犯す確率が高い。
     また、ある美術商からの話では、夫と娘の死後、精神に異常をきたしたような行動が見られたとのことである。:遺伝的要因がない場合(つまり統合失調症でない場合)は、このようなことは起きない。
  4. 朝井閑右衛門:統合失調症および双極性障害
     性格は統合失調症の患者に見られるもので、その代表例と言ってもよい。
     非常に明るい行動と非常に暗い行動がある時期を境にしてあった。
     牧野氏が感じたある時の朝井閑右衛門の姿 「『エカキが長い間絵の具をもたぬと、キチガヒになるとかと・・・・』」、牧野の前に現れた朝居閑太郎は着る物も靴もボロの姿であった。:統合失調症?
     文展の若きホープとして活躍しながら、次第に画壇の中央から距離を置くようになり、隠遁者のような生活を送るようになった。:社会的、感情的ひきこもりである。統合失調症の初期において、孤独への要求の高まりとして現れる。   
  5. 依岡慶樹:離人症(または双極性障害)
     病気(腎臓?)が回復した後、ある時期爆発するような気分に囚われた。:双極性障害(躁鬱病)または統合失調症。
  6. 梅原龍三郎:双極性障害
     人と離れて制作に没頭した。:社会的、感情的ひきこもりである。統合失調症にその初期において、孤独への要求の高まりとして現れる。
     長期間作品を制作することに悩み続けた。:統合失調症における陰性反応?鬱的症状? 
     自殺願望があった。:鬱的症状


 これらは、絵画より感じたものと行動・履歴よりの調べた結果が一致した。また同様に、長谷川利行、高間筆子および高間惣七等も行動面や遺伝的な面には問題があり、そして彼らの絵画には問題のある色彩等が見られる。


 終わりに

 いろいろ書いたが、絵画と精神には次のようなことがあると考える。
1. 画家は単に色彩等を人の作品をまねして描いているのではなく、心に感じたとおりに描いている。
2. 濃い緑色のワイシャツに真っ赤なズボンをはいている人の精神はやや問題があるのではと感じることと同様に、素人目で作品が異様と感じるのは、画家の精神に問題がある可能性が大きい。
 そして、その画家の行動などが書かれた本より、画家には精神疾患を抱えた人がとる行動および性格があるかどうかを調べると、ほとんど該当した。

 また、作者の精神に問題があるような絵画を収集し履歴を調べると、作者のほとんどが幼少期に問題があるような環境に育っている。そして小児期より絵を描いている。また、社会から離れ暮らしていたあるいは放浪していた等の行動が見られた。


 参考文献
 
 「天才 創造性の秘密」(W.ランゲ・アイヒバウム著 島崎敏樹・高橋義夫訳 みすず書房)
 「なぜ、その子供は腕のない絵を描いたか」(藤原智美 祥伝社)
 「精神病とともに生きる」(著者:ビクトリア E モルタ 訳者:林建郎 星和書店)
 「地域精神保健と生活臨床 5月家族会勉強会」 (ホームページ 東京都立精神保健福祉センター 伊勢田堯所長)
 「幻聴・不安の心理療法」(黒川昭登、上田三枝子共著 朱鷺書房)
 「天才と分裂病の進化論」(デイビィッド・ホロビン著 金沢泰子訳 新潮社)
 「躁うつ病(双極性障害)にミトコンドリア機能障害が関連」等(独立行政法人 理化学研究所 ホームページより)
 MTI装置による脳映像に研究報告:南東北医療クリニック 松澤大樹医師 ホームページより


 補足事項 精神疾患の分類 DSM-IV(米国精神医学会診断マニュアル第4版)

1 通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害
精神遅滞、広汎性発達障害(いわゆる自閉症)、特異的発達障害(いわゆるLD)等を含む。
2 せん妄,痴呆,健忘性障害,および他の認知障害
せん妄、痴呆等のいわゆる外因性精神障害の一部を含む。
3 他のどこにも分類されない一般身体疾患による精神疾患
2に含まれない外因性精神障害を含む
4 物質関連障害
アルコールや麻薬・覚醒剤等に関連した障害を含む。
5 統合失調症および他の精神病性障害
統合失調症(精神分裂病)やその類縁疾患を含む。
6 気分障害
双極性障害(いわゆる躁うつ病)、大うつ病性障害(いわゆるうつ病)等を含む。
7 不安障害
パニック障害や恐怖症、強迫性障害(いわゆる強迫神経症)等を含む。
8 身体表現性障害
身体化障害、転換性障害、心気症等、身体症状を呈するいわゆる神経症・転換ヒステリーの一部を含む。
9 虚偽性障害
意図的に症状を作り出すいわゆる詐病の一種。
10 解離性障害
解離性健忘、解離性とん走、解離性同一性障害等、いわゆる解離ヒステリーの一部を含みます。
11 性障害および性同一性障害
性機能、性嗜好等の障害です。
12 摂食障害
神経性無食欲症(いわゆる拒食症)、神経性大食症(いわゆる過食症)を含む。
13 睡眠障害
不眠、過眠、概日リズム睡眠障害等の睡眠異常と、睡眠随伴症(いわゆる悪夢、夜驚症、夢中遊行)等を含む。
14 他のどこにも分類されない衝動制御の障害
窃盗癖、放火癖、抜毛癖、病的賭博等を含む。
15 適応障害
ストレスに対する不適応反応で、精神病的でないいわゆる心因反応の一部を含む。
16 人格障害
妄想性人格障害、分裂病質人格障害、分裂病型人格障害、反社会性人格障害、境界性人格障害、演技性人格障害、自己愛性人格障害、回避性人格障害、依存性人格障害、強迫性人格障害、特定不能の人格障害。
17 臨床的関与の対象となることになる他の状態
精神科臨床で遭遇する雑多な状況を含む。
18 追加コード番号

 
 改訂 主な改訂内容とその理由

 
2007.1.6 改訂

 「躁うつ病(双極性障害)にミトコンドリア機能障害が関連」等(独立行政法人 理化学研究所 ホームページ)に双極性障害と単なる鬱病との違いが記されていた。そのため、「ここで言う双極性障害(躁鬱病)とは、躁状態と鬱状態という、二つの精神状態を特徴とし再発を繰り返す難治性の病気です。また、鬱病は、鬱状態のみを特徴とする病気で、これはおおよそ15%の人が一生に一度はかかるという病気です。この二つの病気の鬱状態の症状に大きな違いがないが、異なる疾患です。」という文章を書き加え、ほかの文章上の用語(双極性障害、躁鬱病、鬱病等)を書き直した。

 2007.3.10 追加記載

 南東北医療クリニックのホームページで松澤大樹医師による精神障害の記載を見つけた。内容は以下の通りである。これより、同一の患者で統合失調症と双極性障害の二つの疾患が見られることがあると言うことが確信できた。

 全ての精神障害が、うつ病、統合失調症、アルツハイマー病とこれらの組み合わせ以外ないことを知るに到り、にわかに展望が開けた。
臨床研究開始時の当時としては、MRI装置の中で世界最先端であった1.5Tesla装置である。
 普通の精神病はすべて(95%以上)うつ病と統合失調症の混合型であり、高次脳機能障害(内因性)という病名が最もふさわしいということが明らかとなった。
現在の精神医学では、うつ病と統合失調症が同一人に発症することはなく、特に統合失調症は治ることはないと信じられている。毎日の診療を通してこれが科学的に間違いであり、殆どすべての精神病が混合型であることが実証された。これは当科が診療に当たるにぴったりの内容であった。
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