はじめに

 当美術館「屋根裏部屋の美術館」所蔵の彼末宏「静物」を紹介する。
 当初、この作品には何が描かれているか分からなかった。しかし、彼の東京芸術大学卒業時に制作された作品「自画像」を調べることにより、この作品がどのようなものかが分かった。


 彼末宏

 初期の頃はサーカスの芸人たちを題材に、シャガールやクレーを思わせる明るい色を多用した絵画を描いたが、'70年代に画風を一変させ暗調に転じ、黒を用いながらも不思議な透明感のある幻想的な感動を生み出した。


 作品「自画像」(1952年、「〈洋画〉の青春群像 油画の卒業制作と自画像」東京芸術大学大学出版協会)



   
 

 ***作品解説***

 東京芸術大学で絵画を学ぶ学生は、卒業するとき自画像を描く。その自画像には、単純な背景を描いたものが多い。しかし、彼末は自画像に非常に多くのものを描き込んだ。そして、それはシュルレアリスム風とでも言える作品となっている。

・彼末は、額に入っている絵として描かれている。
・右上には、二人の人物が描かれている。
・右端には、額に隠れた人物の足と上着が描かれている。
・右端の人物の袖辺りには、顔の左半分が描かれている。
・それ以外にもいくつかの顔が描かれている。
・そして、別の見方をすると、右下黄色の部分には、多くの人物が描かれているように見える。そして、その人たちは額の中の絵として続いている。腹のふくらんだ、横向きの人は、大きな絵筆を持っているようにも見える。
・花瓶のふくらんだ部分は、左右対称ではない。花瓶も、人の頭を逆さにしたようにも見える。


 作品「壺のある静物の構図」(1978年)





 ***作品解説***

 「壺のある静物の構造」と、これを Adobe Photoshop を用いてコントラストを強くしたものを掲載した。
 作品は、「壺のある静物の構造」とあるが、私には多くの顔にしか見えない。


 作品「静物」(mugenndo取扱、屋根裏部屋の美術館所蔵)



 ***出品者(mugenndo = estel1965jp)による作品紹介***

 ご覧の通りの古い油彩画になります。お気に召す方が居られましまらご入札下さい。県内の古道具屋さんから購入しました。[支持体・板]・[技法・油彩]・[サイズ・F4号]・[額なし]・[状態・良好]・[サインあり・読めずに詳細不明]・・・詳しく判らないので目利きにてご入札下さい。いくらになっても処分しますのでクレーム返品や落札後のキャンセルはご容赦下さい。どうぞ宜しくお願い致します。

 ***作品解説***

 出品者のmugenndoは、estel1965jp(初代)である。estel1965jp(初代)は、家庭の事情により夫婦で収集した多くの絵画をインターネットオークションに出品し、換金した。靉光「薔薇」はその中の一枚である。その後、100枚以上の絵画をまとめて古物商に売り払った。また、オークションI.D.estel1965jpは他の方が使うようになった。このestel1965jp(初代)は、その後、mugenndoとI.D.を変えた。
 この彼末宏「静物」は、古物商にまとめて売らなかったものであり、最後まで大切に所有されていたものである。サインは、彼末を知らないものにとって読みにくいものであり、H.KANOSUEと判断できないものである。この作品は、黒を背景色とし、すばらしい技術力により作り上げられている。サインも作品と調和して、彼末宏のサインではより洗練されたものとなっている。そして、この作品はコレクターが大切にしていたものであることが、これを収めている額が「古径」の高級額ということからも分かる。

 しかし、この作品は、皿の上にあるもの、また、折れ曲がったものも、何なのか分からない不思議なものである。
 また、別の絵が下に隠れているようにも見えるが、これは技巧によるものかどうかは不明である。
 
 この絵画は、何なんだ?
 
 ある時、靉光作品を調べて、そこには画家にしか分かりにくい隠し絵が描かれていることが分かった。
 もしかすると・・・。
 
 よく見ると、壁には四人?、赤いリンゴのような部分には三人?の人の顔が描かれていた。
 この画像からは、非常に分かりにくいが見ようとおもえばなんとか見ることが出来る。赤いリンゴのようなものにある白い部分が、横顔の口である。

 ある時、再び見ると、以前見た顔と異なった顔があった。そして、しばらく見続けると、以前見た顔が現れた。
 これは、トリックアート(だまし絵)である。


 顔(右上部分)



 ***作品解説***

 ここには、いくつもの顔がある。視点を変える事により、顔の形が変わる。
 この画像を液晶ディスプレーで見るとき、自分の顔を上下することにより画面の明度(あるいは彩度)が変わることにより異なった顔を見る事が出来る。

 顔(赤い玉の部分

 

***作品解説***

 この部分にも、いくつもの顔がある。視点を遠くにおくと一つの大きな顔になる。
 左側の顔は、ドクロのようにも見える。

 顔(絵画を180度回転)



 ***作品解説***

 絵画を180度回転してみると、別な顔も見える。


 顔、裸婦、ネズミ(絵画を180度回転)



 ***作品解説***

 ここには、裸婦がいるようである。ただし、首から上は、反対に着いているようである。その頭の横に、口を大きく開けた女性の顔がある。また、その肩辺りに目を見開いた男の顔がある。
 これらは、思い過ごしだろうか。
 しかし、ネズミがはっきり見える。よく観ると、ネズミは数匹いる。


 ネズミと魚(絵画を180度回転)



 ***作品解説***

 ここには、何匹かの動物がいる。
 一番左には、ネズミがいる。右には魚(鯛?)がいる。その間にも何匹かの動物がいる。


 泣き顔(絵画を90度回転)



 ***作品解説***

 ここから、何が見えるかと言われても、別段何も見えないかもしれない。
 何も見えないかもしれないが、私は涙を流している顔を感じる。


 暗闇にある顔(絵画を90度回転)




 終わりに

 作品「自画像」は、ある場所に額入りの自画像が飾られているという非常に不自然な設定であった。また、背後には黒褐色で描かれた二名の人物がいた。自画像としては、非常に不自然な設定である。
 また、作品「静物」は何が描かれているか分からないものである。しかし、よく観ると背景には数名の人物画が描かれていた。
 見方を変えることにより、別の人にも見えるようになった。
 これは、トリックアート(だまし絵)である。


 履歴

1927年 東京都に生まれる。
1946年 東京美術学校油画科入学。
1953年 第27回国画展で初入選。
1958年 西欧学芸研究所より奨学金を受けて渡欧。
1960年 会友優作賞受賞。
1960年 国画会会員となる。
1972年 国画会会員退会。退会後は個展を中心として作品を発表。
1980年 東京芸術大学教授となる。
1985年 自選展開催。
1991年 死去。享年64 歳。

inserted by FC2 system