題 「画家の精神状態」
- 林武
- 萬鐵五郎
- 朝井閑右衛門
- 梅原龍三郎
- 古沢岩美
- 香月泰男
- 全和凰(チョン・ファファン)
- 村上肥出夫
- 緑川廣太郎
- 小林寿永
- 池田満寿夫
- 児島善三郎
科学捜査論文「帝銀事件」 ――法医学、精神分析学、脳科学、化学からの推理――
平沢貞道
科学捜査論文「佐伯祐三 事件の真相」 ――病跡学からの推理――
- 荻須高徳
- 佐伯米子
- 佐伯祐三
- 靉光 シュルレアリスム? トリックアート? それとも幻覚?
- 彼末宏
- 高間惣七
- 正宗得三郎
- 古賀春江
- 李仲燮(イ・ジョンソプ)
- 国吉康雄
- 今西中通
- 関口俊吾
- 長谷川利行
- 田中保
- 村山槐多
- 小糸源太郎
- 森省一郎
天才画家達の秘密
- 鈴木信太郎
- 岡本唐貴
- 黒田重太郎
- 白滝幾之助
- 横堀角次郎
- 作者不詳・中堅画家
- 贋作 その1
- 贋作 その2
- 瀧川太郎
- 雪舟等揚、曽我簫白、大学頭林信敬(錦峯)
- 岩佐又兵衛
- 仏画
- 南画
巨匠
はじめに
ヴァーチャルミュージアム「屋根裏部屋の美術館」へお越し下さり、ありがとうございます。この美術館に収集されてる絵画は、戦前に収集され、埃を被りながら蔵に眠っていたものがほとんどです。そして、蔵の取り壊しで出てきたもので、誰の作品か分からず、価値の分からなかったものです。なかばゴミとして捨てられたようなものです。それをYahoo!インターネットオークションで購入・収集したのです。
所有者が直接そのオークションに出品したもの、古物商等が買い取ってすぐに出品したもの、あるいは古物商等が鑑定に出し真作と認められた後出品したもの等様々です。また、なかには美術商より購入したものもあります。
そして、当美術館の収集品内容は下記のとおりです。
1.日本画の画聖とも言える雪舟の作品
2.雪舟の作品を超える作者不詳の作品
3.岩佐又兵衛工房の作品群
4.曽我簫白の作品
5.南画家の作品
6.日本での西洋画の歴史を作ったとも言える画家の作品
小糸源太郎、梅原龍三郎、児島善三郎、鈴木信太郎、林武、村山槐多
7.贋作(真作の保証が取れなかったもの):萬鐵五郎作品群および荻須高徳作品
8.サインのない朝井閑右衛門作品群
8.海外で評価された画家の作品
国吉康雄、田中保、松本富太郎
9.中堅画家および巨匠の作品
跡見泰、鈴木保徳、小早川篤四郎、荒谷直之助、宮本三郎(初期絵画)、今西中通
10.韓国で西洋画のNo.1画家である李仲燮の優れた作品
11.中国清時代における美人画の画家改gの優れた作品
12.作者不詳ではあるが優れた絵画の作品群
13.ポップアートとも言えるような仏画
凄い作品群です。しかもこれらの絵画はネットオークションを始めて2年間ぐらいで収集したものです。そして私はサラリーマンで、過去に美術書といえる本を1冊も持っていなかったのです。絵画収集を始めてから美術書を購入しだしたのです。それも、その画家の絵画を購入した後です。それでは、ほとんどが贋作ではないかと専門家は考えるはずです。なかには贋作を含んでいる可能性は否定はしません。しかし、ここに展示してある絵画にはほとんど贋作はないと考えています。
収集絵画の半数は、購入した後調べたものです。たとえば、雪舟の作品は「旦那様が集めた絵画。支那絵画か?」と紹介されていたものです。購入してから調べると、落款には「眞雪」と記載されているものです。作品を見て、この画家は狩野派と考えました。そして、その作品の質は狩野派最高の部類と感じたものです。その落款について、落款印象集で調べると「雪舟」とあったのです。また、さらに調べると、その絵画に描かれている馬は、雪舟の描いた馬の絵をまねた雪村のそれと同じであり、「質」は雪村のものを上回るものです。そして、絵画の「質」はといいますと多くの雪舟作品を大幅に上回るものです。また、その「旦那様」について伺うと戦前の眼鏡業界一番の所得で、副業として金貸しを営んでいた人で所得には問題がないことも分かりました。そして、その出品者は私も知っている由緒ある店の社長です。旦那様の奥様より依頼を受けて出品されたものです。相手の懐具合も調べたものです。
出品者について
インターネットオークションでは、出品者がどのような方かを知ることが重要です。なかには、贋作を専門に取り扱っている方もいますので。
美術商以外から入手した油彩画のうち、多くは一人の古物美術商の方から入手したものです。その方がインターネットオークションに記載してあった内容は次のとおりです。
物故堂がオークションに参加してちょうど丸2年が経過しました。この辺りで私の絵に対する考え方を今一度整理をし直し来年度に向けての指針としたいと思います。今後、***のオークションに参加される皆様に私の考え方をご理解いただきオークションを楽しんで頂きたいと思います。まず、私の基本は初出しの作品の研究に有ります。美術の研究を始めて30数年になりますが、人知れず薄暗い屋根裏や開かずの蔵の中に数十年間に渡り陽の目すら見れずに眠り続けている作品を蘇らす事に魅力を感じた事がきっかけでした。夭折の画家を始め戦前の私が認めた若しくは好きな物故作家を中心にそこら辺の美術館の学芸委員よりも、時には学芸課長や館長よりも遥かに美に対しての見識と知識と良識を持ち合わせて日々研究をしております。絵を見るときに一番大切なのは偏見と先入観を一切取り払う事です。しかしながら、非常に残念な事に今の美術研究者や美術評論家をはじめ、業者間で作る鑑定機関等を含め余りにもこの先入観や偏見、偏った絵の見方をする人が多すぎるのです。特に最近の美術館学芸委員などは自分の意見を言わない連中も多い。昔は萬鉄五郎の研究で権威が有り又、その他の絵に関しても非常に良く絵の判る人であり、特に萬鉄五郎の絵について私にとって良い勉強をさせて頂いた陰里鉄郎先生や藤島武二の絵について色々教えて頂き助けて頂いた事もある隈本謙次郎先生、青木繁や坂本繁二郎及び古賀春江に関して、非常にためになる教えを受けた元京都近美の館長で後に美術界のドンにまで昇りついた河北倫明先生など、今思えば絵の良く判る人がいた。明治美術の権威の青木さんにも色々勉強させて頂いた。面白い親爺であるが。これらの先生方には昔本当に大変お世話になった。しかし、その逆でその昔、館長クラスのそれも、鎌倉の近代美術館で土方さんの弟子達でさえ絵の判らない人も数人いた。その中の1人で文章を書くのは非常に上手いが、この全く絵の判らない1人のために、私の尊敬する河北先生や陰里先生が佐伯の贋作騒動に巻き込まれ、悲運を遂げられた事には憤りさえ感じる。余談だが土方さんには村山槐多や関根正二の絵に世界の事で非常に勉強になった事を記憶している。それがどうだ。槐多や関根の絵など全く研究もせず、彼らの絵の本質を知りもせず扱ったことさえ無い所詮画商たちの集まりである東京美術倶楽部が、権威だか何だか知らないが所定鑑定人になっている。もういい加減にして欲しい。槐多や関根だけではない。その他にも自分達では判らない多くの作家(浅井忠・古賀春江・三岸好太郎・今西中通・松本俊介等数え上げれば限が無い)の所定鑑定人になっているのだから、呆れるばかりだ。彼らに言わせると私の意見など馬耳東風だろう。
以上の記載からも、この方は少なくとも美術に関してそれなりの知識と自信があることは確かです。
真贋を確かめるために、専門家に作品を鑑定してもらう必要があるのではないかと言う意見もあるはずです。しかし、専門家はたんに落款、印章及び作風から真贋を判定するため、あてにはなりません。つまり、林檎の絵ばかりを描いていた画家の蜜柑を描いた絵が出てきたら、これは贋作と判断される可能性が高いのです。たまには画家もお歳暮でもらった蜜柑を描くこともあるはずです。また、新たな作風に取り組み、落款の描き方も工夫し、印章も新調して意気込んで作り上げたものも贋作と判断されます。
作品鑑定
それでは、日本での美術鑑定における最高権威機関である東京美術倶楽部について述べます。
1)ある美術商による東京美術倶楽部についての意見
「東京美術倶楽部を例に挙げると鑑定委員が洋画では10人居ます。その内の二人以上が反対すれば鑑定書は出ません。8人が良いと判断してもです。そう言う場合、その作品はどの様に理解すればよいのか?即ち絵の真贋を決めるのに合議制そのものに無理が有りますし、その鑑定委員も皆さん画商達です。況や今までに見た事も扱った事も無い作家の作品までも鑑定するわけです。私が言いたい事は、いかに鑑定書と言う物がいい加減な物であるのかと言う事です。」
2)別の美術商による東京美術倶楽部についての意見
「東京美術倶楽部は結果以外のことは全く告げようとせず、客観的な事実を優先し、絶対的な作品のみを真正としている。・・・また、ある画家については特定の美術館に鑑定を頼んでいる。・・・東京美術倶楽部の会員は、殆どが世襲である。」
3)佐伯祐三の作品鑑定について
『天才画家「佐伯祐三」真贋事件の真実』(落合莞爾 時事通信社)に佐伯祐三の鑑定結果に対する問題が記載されています。この鑑定がいかに問題があるかがよく分かります。しかし、非常に論理的に、また深く調べられているにもかかわらず、一部の画商の反論もあります。それは、論理的な反論は全く出来ず、ただ「危ない。危ない。」との意見だけです。
逆さで展示されても気づかなかった絵画
ニューヨーク近代美術館でアンリ・マティスの「舟」が展示されていました。この絵画が逆さに展示されていても展覧会最終日前日までは誰も気付きませんでした。それまでにのべ11万6千人もの入場者があったのです。当然、絵画について評論をしている人達も多数いたわけです。
フェノロサ
アーネストフェノロサは、日本の美術に貢献した人です。一時期は日本美術に関しての最高権威者として君臨していた人です。また、中学で習う「美術」には必ず出てくる人です。
中学時代、授業で、私はアーネストフェノロサの伝雪舟「鷹猿猴図」(ボストン美術館蔵)についての解説を読みました。私は、「鷹猿猴図」を観て感動はしませんでした。それどころか、その絵を下手なものだと感じました。しかし、フェノロサはこの絵から限りない詩情を読み取ったのです。フェノロサの絵画批評を読み、本当に解説のとおりかと思うと同時に、この絵画から何も読み取れない私は自分の能力のなさを感じました。
しかし、「鷹猿猴図」は雪舟の門人によるものと現在では考えられています。フェノロサがこのことを知っていたなら、この絵画を絶賛することはなかったと確信しています。
また、作者不詳「鶴」(下に掲載)と比較すると、「鷹猿猴図」も下手な絵だということがよく分かります。
伝雪舟「鷹猿猴図」(一部)
フェノロサは、白鷺を「全世界の敵そして個人の敵に追いかけられている」とし、鴛鴦を「夫婦愛という翼をはばたかせて精霊の世界とでもいうものに飛びたとうとしている」と捉えています。
しかし私には、鷹は宙に静止しているように見えます。また、白鷺は、ずっこけたように見えます。鴛鴦は溺れているのか飛んでいるのか分かりません。
以上のように、鑑定家および一流の美術研究家の絵画評論もあまり当てになりません。各人がすべての作品について評価をすることは難しいことですが、しかし、他の作品と比較し、自分がどのように感じるかが大切です。
ただし、インターネットオークションで出品されている掛け軸の95%以上が贋作だということを心しなければなりません。
それは、私がここに展示している掛け軸の約20倍近くの贋作を所有していることでもあります。
掛け軸については、一目で贋作と判断されるものでもあえて購入しました。
贋作を調べることは、真作の判断材料にもなるのです。しかし、当然真作を数多く見なければならないことは確かです。
また、一目で安物と分かるものでも、なぜ安物と感じるのかを調べるために購入もしました。
それでは、なにかが分かったかと言いますと、少しは分かりました。
掛け軸は、@質 A落款・印象 B風格・品位 により真贋を考えることは非常に重要なことです。それ以外にも画家の性格と絵画の関連をつかむことも重要だと思うようになりました。
また、油彩画においては、画家の性格と絵画の関連がより顕著に現れてきています。
ここでは作品の比較をしながら質の検討をしてみたいと考えます。作品が贋作でも、真作を超えることがありますので、これだけでは真作という断定は出来ません。
しかし、作品が大幅に巨匠の作品の質を上回った場合は、それはそれでひとつの真贋判断における判断の一部となることは確かです。
作品比較 その1 「鶴図」(色調補正あり)
それでは、当美術館所蔵絵画の一部を紹介します。次に掲げる2つの絵画の内、上の「双鶴図」が当美術館所蔵のものです。これは、贋作では決してありません。なぜなら、画家名が書かれていないのですから。そして、その下が雪舟「鶴図」(「四季花鳥図屏風 一部 京都国立博物館蔵)です。この「双鶴図」と雪舟「鶴図」を比較したら、雪舟の作品はまるで子供のぬり絵のように見えます。
ただし、「鶴図」は非常に古いもので、全体が褐色掛かっています。そのため、Adobe Photoshop という画像処理ソフトで色調補正をしましたので、強い色調となりやや品位が低下しています。
しかし、面白い結果も得られました。松の幹のへこんだ部分に苔を描いたと思われるものが見つかりました。
雪舟作品に描かれている訳の分からない黒い点々も苔ではないでしょうか。
作品比較 その2 岩絵の具の比較
日本画においては、岩絵の具の質は非常に重要です。岩絵の具は鉱物等を粉末にした顔料で、群青、緑青、朱、丹などがあります。そして、その絵の具はそれぞれの流派にとって門外不出のようなものがあります。この絵画に用いられているものは、浮世絵師達が決して用いることが出来ないものです。また、狩野派の絵画でもこのようなすばらしい岩絵の具は用いられていません。
作品比較 その3 後期清時代の巨匠作品 改g「仕女図」
改gといえば、後期清時代の巨匠です。仕女図が有名です。上の「芭蕉下仕女図」が当美術館所蔵の絵画です。そして、下が広州市博物館所蔵の「竹下仕女図」です。仕女の表情が、当美術館所蔵絵画の方が優れています。
以上の絵画は、美術館等で展示されている絵画の平均的な質を上回ることは、多少絵画を勉強された方ならお分かりのことと思います。
この美術館に展示されている掛け軸は、落款および印章を十分調べ、そして作品の質を十分吟味したものです。また、油彩画は作品の質および心情を調べたものです。
そして、油彩画はたとえ贋作と言われたものでも、あえて展示しています。この美術館の面白いところは、その贋作と言われた絵画群です。この贋作と言われた絵画を調べると、画家の精神的疾患(主として統合失調症および双極性気分障害)が分かるのです。また、その画家について記載した書籍を調べると、そこからも画家の精神的疾患が分かるのです。そして、その精神的疾患が絵画より読み取ったものと一致するのです。
なお、この画家の精神疾患については、美術解説書等には記載されていません。つまり、美術評論家は画家の精神疾患については分かっていないのです。
しかし、この贋作といわれた作品から画家の精神疾患が読み取れるのです。
それは、これらの贋作といわれた作品が真作ということか、あるいは贋作作製者は美術評論家より画家について詳しいかのどちらかです。
当美術館の面白さは「絵画による精神分析」です。これは、まるで犯罪捜査官が猟奇殺人を科学的・総合的に研究することを目的としたプロファイル研究と同じです。
これについては、精神分析に興味を持っている方なら十分お分かりになるはずです。
そして、さらに面白いのは画家のサインなしの、しかも作風の全く異なる作品の画家を調べたことです。これについては、作品の比較では分かりにくいですが、推理小説の好きな方ならお分かりになるはずです。