屋根裏部屋の美術館
虹の世界、迫り来る立体の世界、幻聴、幻覚を描く画家達

 初めに

 当美術館「屋根裏部屋の美術館」所蔵絵画で、幻視を描いた城景都「森の精」および萬鉄五郎「石榴」(真贋不明)を紹介する。
 この幻覚を描いた絵画は、シュールレアという面白いもの(?)ではなく、もっと静かに迫り来るものである。

 
 統合失調症の患者が見る景色

 幻視・幻聴と言うものが、統合失調症に見られる症状である。しかし、幻視・幻聴が必ずしも統合失調症だけの症状ではない。双極性障害および離人症にも見られる。
 また、幻視とは異なるが、「迫り来る立体」というのもあるようだ。これは、幻視に準じるもの考える。
 また、統合失調症の患者には、プリズムを通して見るような虹色の世界があるようだ。
 「米国での精神病(統合失調症)疑似体験装置で患者の視聴覚を体験したが、声にはエコーがかかり色もプリズムを通して見るようであった。」(「地域精神保健と生活臨床 5月家族会勉強会」 東京都立精神保健福祉センター 伊勢田堯所長)・・・(補足事項 「製薬会社ヤンセンファーマ社のバーチャル・ハルシネーション 米国版」の体験と考える。)


 プリズムを通して見た世界

 ムンク「太陽」



 このような絵画は、萬鉄五郎の初期絵画にも見られる。


 迫り来る立体

 作品 「羽遊」 (所有者不詳)



 この作品の画家名は伏せるが、その時の心情と思われる文章があった。
 「大の登山好きで、若いころはニコンFを持って山の花や景色を追った。『わたしは今ここで死ぬんだ』そんな経験が2、3度、スキーも朝飯前だったが、少々辛くなって絵を本格的に描き始めた。」
 この絵画は、この作者の「わたしは今ここで死ぬんだ」という鬱的心情の後に訪れたドーパミン大量放出による爆発的感情が起きたと考える。そして、統合失調症に見られる幻覚に似たもの、「迫り来る立体」を見たと考える。

 
次の絵画は、作者不詳「コーヒーカップ」である。同じような感覚があったと考える。。この2枚の絵画には非常に共通したものがあります。それは迫り来る立体感以外に強烈な色彩がある。

 作品「コーヒーカップ」 (仮題 作者不詳 所有者不詳)



 この迫り来る立体感が萬鉄五郎 「海辺に建つ家の図」にもある。

 萬鉄五郎「海辺に建つ家の図」 (「忘れられていた日本洋画」 住友慎一著 里文出版)

 
この萬鉄五郎「海辺に建つ家の図」の解説に、「青い海の海岸(陸中海岸であろう)に面して家が恰も茸でも生えるようにもくもくと立ち並び、周りの樹木もすくすくと伸びている」とある。



 佐伯米子「花」 (仮題 青山美術取扱絵画)



 佐伯米子「花」にも同じ感覚のものがある。サインの部分は花瓶を塗りつぶして書かれている。

 萬鉄五郎「石榴」(真贋不明 屋根裏部屋の美術館所蔵)



 インターネットオークションで見つけた萬鉄五郎「石榴」(真贋不明)は、明らかに幻視を描いている。この絵画を描いた人は石榴が次のよう見えたのである。
 「熟した石榴を引き裂くと、赤肉を引き裂いたように見える。こぼれ落ちたまだ熟してない青い粒は巨大化して行く。青紫の塊は私に迫って来る。」
 この作品はこのような感覚の元で描かれたものであり、幻視を描いたものである。


 幻聴の世界

 ムンク「叫び」、作者不詳「昼寝」(仮題)および萬鉄五郎「金切り声の聞こえる風景」には統合失調症患者にみられる幻聴が描かれている。

 ムンク 「叫び」

 ムンクは統合失調症を患っていたことは知られています。また、この作品「叫び」は統合失調症における幻聴を描いたものと言われている。



 作者不詳 「昼寝」 (仮題 所有者不詳)



 ムンク「叫び」では、知覚異常による歪み、耳をふさいでいることで分かる幻聴、空の色に見られる色彩感覚の異常がある。また、作者不詳「昼寝」(仮題)では、多くの鳥が騒いでいる幻聴および色彩感覚の異常がある。

 萬鐵五郎 「金切り声の聞こえる風景」



 萬鐵五郎「金切り声のする風景」を別の言い方をすると、作品「統合失調症患者の幻聴『金切り声』が聞こえる風景」となる。


 幻視の世界

 ハインリッヒ・クルーヴァー(1920年代 シカゴ大学)は、自分自身でメスカリンを飲んだり、幻覚剤を飲んだ他の人たちにインタビューした結果、幻視には「定型」があることを見つけた。その「定型」の基本的なパターンは次の4つである。

 @ 格子とハチの巣模様
 A クモの巣模様
 B トンネルと円錐
 C 渦巻き

 クルーヴァーは、この4つの図形は、ドラッグ中毒のほかにも、たとえば、偏頭痛、てんかん発作、精神病、夢、中毒による震え、高熱、感覚喪失、酸素欠乏といった多くの状態によって引き起こされると述べた。(「科学を捨て、神秘へと向かう理性」 ジョン・ホーガン著、竹内薫訳、徳間書店)

 次の城景都「森の精」および草間彌生「A PUMPKIN(BB-C)」にはこのクモの巣模様がある。また、草間彌生はこの幻覚を見たことを述べている。

 城景都「森の精」(仮題 銅版画 屋根裏部屋の美術館所蔵)



「植物の葉脈から導き出した、貫入(ひび)風の罅割れを使った作品」と評されている。
 この作品には、「繰り返しのパターン」がある。たんに、「植物の葉脈から導き出した、貫入(ひび)風の罅割れを使った作品」ではないことは、統合失調症患者独特の幻覚が同時に描かれていることから分かる。
 美しく描かれてはいるが、顔から木が生えているのだ。これは、統合失調症患者が見る幻視である。幻視は、顔が崩れていくように見えたり、壁から手が生えているように見えたりするのである。

 幻覚というものは、意識と無意識の間にあるものだろうか。

「意識して筆を執っている間は、結局職人仕事しかできない。しかしこの職人仕事をしばらく続けているうちに、まるで夢と現の間をさまよっているような忘我の時間が訪れる。」(「城景都のエデン」/『芸術新潮』1974年9月号)

 草間彌生 「A PUMPKIN(BB-C)」



 この草間彌生「A PUMPKIN(BB-C)」には、「繰り返しのパターン」がある。

 彼女は幼少の頃より物体の周りにオーラが見えて、様々な声に悩まされ、強迫的な同パターン(繰り返し・増殖)が目の前に現れ、それを振り払うかのように(または取りつかれたかのように)制作に没頭したという。・・・これが、幻視・幻聴である。


 終わりに

 「繰り返しのパターン」および「幻視」等は、よく統合失調症の患者(画家)が描くものとして取り上げられていますが、それ以外にも「プリズムを通して見た世界」および「迫り来る立体」もある。
 立体感にあふれる作品および美しい色彩で描かれたプリズムを通して見た世界の作品は、画家が目指すような作品である。
 しかし、ここで取り上げた画家の多くは、精神には問題があることも確かである。


 補足事項 

 幻覚は精神病(統合失調症および双極性障害)および神経症(離人症やPTSD等)で起きる。
 また、幻覚は、幼少期の家庭環境に問題があった人に起きると言っている人もいる。
 城景都および萬鐵五郎の幼少期の家庭環境には問題があったことは確かである。


 
  

 

inserted by FC2 system