屋根裏部屋の美術館

朝井閑右衛門 彼の好きな色彩で描かれた「涙するキリスト」

 はじめに

 
当美術館「屋根裏部屋の美術館」所蔵の朝井閑右衛門?「涙するキリスト」(仮題)および朝井閑右衞門「ジャンク(帆船)」を紹介する。
 朝井閑右衛門?「涙するキリスト」は、朝井閑右衛門「君子蘭」(サイン入りではあるが真作保証絵画ではない)を購入したさい、同時に購入したものである。
 サインなしの絵画としては非常に高額のものであった。
 購入後、部屋に飾っていたが、ある時「油彩画の科学」(寺田春弌著、三彩社)を読んでいたとき、なぜかふと朝井閑右衛門の名前が浮かんできた。この本は、直接閑右衛門とは関係のないものである。ただ、この本を読みながらこの絵画と閑右衛門が用いていた色彩との関連についてなにかを感じたのだろう。
 ただし、この絵画の作者が閑右衛門と証明できるものは何もない。たんに、閑右衛門のひとつの特徴である「厚塗り」と私が入手していた閑右衛門の作品「青い花瓶の薔薇」(ただしこれは閑右衛門の作品として認められたものではない)と同じ色彩感覚の持つ画家と考えたからである。なお、この絵画の元所有者は閑右衛門サイン入り作品「果物と鉢植えの花」と同じ方である。コレクターは、同じ画家の作品を集めることがよくある。
 

 作品「涙するキリスト」(仮題)


 出品者による作品紹介には、「ゴッホの自画像だと聞いてますが、真贋の保障はございませんのでよく写真をご覧になり、ご了承の上、ご入札をお願いいたします」とあった。
 この作品には作者のサインない。また、キリストを描いたものでゴッホの自画像ではない。
 この作品は、朝井閑右衛門「果物と鉢植えの花」(サインあり。ただし真作の保証はない)と同一の所有者のものである。 また、これは、債権回収を職業とするヤクザの親分が旅館経営者より差し押さえたものである。ヤクザの親分は、手放した当時は、80歳過ぎの高齢で宮崎にある病院に入院していたようだ。
 この作品はサインなしにもかかわらず非常に高額であった。それは、巨匠が描いた絵画だと言われたためと考える。

 この作品を部屋に飾っていた。これは厚塗りのもので、非常にダイナミックに描かれ、また日本の画家にあまり見られない色彩感覚のものである。


 ある時ふと感じた印象 

 ある時、ふと思ったことは朝井閑右衛門と同じ嗜好だということである。厚塗り、そして私が所有している美しい薔薇の絵(これは閑右衛門の作品と考えているもの)と同じ好みによる色彩だからである。



 ただそれだけだが、さらに考えるとコレクターは同じ作家の作品を集めることがしばしばある。この作品はヤクザの親分が旅館より差し押さえたものである。つまり先の朝井閑右衛門のサインがある「果物と鉢植えの花」の隣?に飾ってあった可能性が高いものである。

 閑右衛門の作品には、非常にせこせこしたものが多いが、反対にダイナミックのものもある。


 朝井閑右衛門のサイン入り作品「君子蘭」(真贋不明)

 


 作品「ジャンク(帆船)」(仮題、屋根裏部屋の美術館蔵)





 この作品の裏面には「閑衛門 淋画工人」というサインがある。サインの字体には、なにか性格の偏りを示すものがある。
 彼の作品には、「廃園に於て」、「仮面なしでは生きられない」等の寂しい題名の絵画がある。
 彼は、非常に寂しい思いをしてたことが窺える。また、画家ではなく画工人と言ったのは「絵かき職人」と言う意味合いである。
 

 作品「ガラス器」



 先に、「幻視・幻聴、暗闇・暗闇から出てきたときに見る光のまぶしさ、極彩色、それらは脳内神経伝達物質の伝達異常であり、それは精神の異常から起きるのである」と述べたが、この絵画はその暗闇で描かれたようなものである。

 これらの作品は、暗く描かれている。同じような絵画で厚塗りのものがある。それはこの絵画を工芸品として画工閑右衛門は制作したのだろう。


 終わりに 

 絵の具に関してから、この「涙するキリスト」が朝井閑右衞門の作品と断定は出来ない。しかし、次の点から、私はこの作品が朝井閑右衞門のものと考える。

・朝井閑右衞門は、双極性障害を患っていた。この点に関しては、屋根裏部屋の美術館「朝井閑右衞門 朝井閑右衞門所蔵絵画」に記載してある。彼の作品には、極端に、暗く、いじけたようなものが多い。それと反対に、この「涙するキリスト」は極端に、明るく、開放的である。これは、その鬱状態で描かれたものと躁状態で描かれたものがあるからである。
・厚塗りである。厚塗りだけで朝井閑右衞門の作品とすることは出来ないが、極端な厚塗りは彼が描いた作品の特徴のひとつである。
・もとの所有者が、朝井閑右衞門のサイン入り作品「君子蘭」を所有していた。コレクターは同じ画家の作品を所有することはたびたびある。
・作品「薔薇」を別の角度から朝井閑右衞門の作品としたが、この作品「薔薇」にある特異的とも言える色彩と、作品「涙するキリスト」にある色彩とが同じである。
 
 以上が、この作品「涙するキリスト」が朝井閑右衞門の作品だと判断した理由である。
 なお、私は作品「上海バンド」(東京美術倶楽部の保証絵画)を所有しているが、この「涙するキリスト」はその作品「上海バンド」の質より大幅に上である。


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 メモ

 「朝井閑右衛門 思い出すことなど」(門倉芳江著、求龍堂)には、閑右衛門が用いていた絵の具の名前

カドミウムルージュ、フレンチバーミリオン、ローズマダー、プルシャンブルー、セルリアンブルー、コバルト、シナバグリーン、ジョンブリアン、ヴァンダイク・ブラウン、ジョンカプシン、白
 
 油彩で代表的な透明色はクリムソンレーキ、ジョンブリアン、ウルトラマリンブルー等。

カドミウム・ルージュ(カドミウム・レッド、プルプル) 赤色 CdS・CdSe
フレンチ・バーミリオン(辰砂) 赤色 HgS
ローズ・マダー サーモンピンク 茜の根より抽出 主成分アリザリン マダーとは、中世の三大主要染料のひとつである西洋茜から採った植物染料のこと。

プルシャンブルー(プラッシャン・ブルー) 青色 (Fe4[Fe(CN)6]3)
セルリアン・ブルー 青色 CoO・SnO2
コバルト・ブルー 青色 CoO・Al2O3

コバルト・グリーン 緑色 CoO+ZnO
シナバ・グリーン 緑色 ?

ジョン・ブリアン 黄色 Ag,Cd,Fe

ジョン・カプシン 茶色
ヴァンダイク・ブラウン 茶色 酸化鉄系顔料?


 黄色 カドミウムイエローレモン 硫化カドミウム
     カドミウムイエローL.M.D. 硫化カドミウム
     カドミウムイエローオレンジ 硫化カドミウム
     レモンイエロー クロム酸バリウム
     ストロンシャンイエロー クロム酸ストロンチウム
     クロームイエローレモン クロム酸鉛 
     クロームイエローL.M.D. クロム酸鉛
     クロームイエローオレンジ クロム酸鉛
     ネーブルスイエロー カドミウムイエローと亜鉛または銀
     ジョンブリアン 銀、カドミウム、酸化鉄
     オーレオリオン 亜硝酸塩第二コバルトカリウム
 緑色 カドミウムグリーンL.D. カドミウムイエローと群青またはカドミウムイエローとビリジアン
     ビリジアン 酸化クロム 含水
     オキサイドクローム 酸化クロム 無水
     エメラルドグリーン 酢酸銅と亜ヒ酸銅の複円
     クロームグリーンNo.1〜5 クロム酸塩+ブルシャンアンブルー
     コバルトグリーン 酸化コバルト、亜鉛
     テルベルト 緑土(ケイ酸鉄)
     コンポーゼグリーン カドミウムイエローとビリジアンの混合 No.1-3 透明 N0.4-5 不透明
     タルキーグリーン 炭酸銅
 碧藍 ウルトラマリンL.D. ケイ酸アルミニウムと硫化ナトリウムの複塩
     ブルシャンアンブルー フェロシアン化鉄またはフェロシアン化鉄カリ
     セルリアンブルー 錫酸コバルト
     コバルトブルー アルミン酸コバルト

 参考文献

 「油彩画の科学」(寺田春弌著、三彩社)

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