佐伯祐三 存在の主張


 はじめに

 靉光作品を研究して、作品に隠すように顔を描く画家がいることが分かった。
 あらためて、佐伯祐三の作品を調べると、彼もその一人であった。
 また、靉光と同様に、佐伯も自画像を二重像で描いていた。その二重像の本質には、「自分の中に別の自分を感じる」という精神的問題がある。


 作品「休息(鉄道工夫)」(1926年頃、石橋美術館蔵)



   



 「おそらく酒が入っているのであろう。壜とグラスが置かれた小さな卓を囲んで、鉄道工夫が

 この作品には、多くの顔が描かれている。
 また、描かれている3人の鉄道工夫で、中央が佐伯祐三である。
 そして、それは二重像で描かれている。


 作品「自画像」(1917年頃、愛知県美術館蔵)





 佐伯の後ろには別の顔がある。


 作品「共同便所」(1928年、大阪市立近代美術館設立準備室蔵)





 この作品にも、多くの顔が描かれている。


 作品「カフェ・レストラン」(1928年、大阪市立近代美術館建設準備室蔵)





 この作品の棚には、顔が描かれている。


 作品「コルドヌリ(靴屋)」(1925年、茨城県近代美術館蔵)



   



 この作品を、反時計回りに90度回転し、一部を見てみる。

 中央上部四分の一にある赤い部分を唇とし、一番上の黒い部分をそろえた前髪とする。そうすると、前髪の下に左右に黒い目に相当するものがある。じっとその目に当たる部分と唇に当たる部分を凝視すると少女の顔が見える。
 次に、その唇に当たる部分の右下に赤色と青色の部分がある。その左側に赤い線を含む黒色の丸い部分がある。その2つを目とする。その目に当たる部分を凝視すると男の顔が見える。
 また、その赤色と青色の部分だけを凝視すると男の横顔が見える。
 それ以外にも画面右下、全体の四分の一にも顔のようなものが見える。

 また、作品左下には、黒猫がいる。


 佐伯祐三「ノートルダム寺院」(筆墨と水彩、「佐伯祐三巴里日記9」/「未完 『佐伯祐三の巴里日記』匠秀夫編・著)



       

 この建物全体がひとつの動物の顔に見える。黒い屋根にもいろいろなものがいるようだ。

 中央下の赤い部分を舌とし、全体を凝視すると動物の顔に見える。この寺院の屋根の上にある二つの塔が耳である。
 こんどは、中央にある丸いステンドガラス窓を顔と見立てると立っている男が浮かぶ。その左右にも人がいる。この左の人は女である。右が女の子である。
 今度は、丸いステンドガラス窓の下のほうだけに注目し、赤い部分を大きく開けた口として見ると、男の笑った顔に見える。左には二人が立っている。また、右には笑っている顔がある。
 
 作品「コンドヌリ(靴屋)」と作品「ノートルダム寺院」には、動物と女の子が描かれていて、その二つには作風は大幅に異なるが、根底には作者の同じ精神がある。


 作品「夜のノートルダム」(1925年、大阪市立近代美術館建設準備室蔵







 いくつもの顔が重なり合い、大きな顔を作っている。


 作品「パリの裏町」(1924年頃、大阪市立美術館蔵)



  

 この作品にも、多くの顔が描かれている。
 男の顔、涙を浮かべている少女、暗闇の中で絵を描く画家。


 作品「新聞屋」(1927年、朝日新聞社蔵)



  

 この作品には、動物と顔が描かれている。


 第1回目渡欧作「フランス風景」(仮題、1924年?、古物美術商物故堂取扱、屋根裏部屋の美術館蔵、Adobe photoshopによる自動色調補正有り)





 この作品には、動物の顔が描かれている。


 吉薗佐伯作品「雪のモンスニ通り」(「芸術新潮」1996年4月号)





 この作品には、顔が描かれている。


 終わりに

 吉薗周蔵関係から出てきた佐伯祐三の日記および作品は、筆跡以外にこのような「作品に顔、動物が描かれている」という観点からも真作だと分かる。

 作風が変わっても、画家の精神はあまり変わらないのである。

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